目次
1. はじめにー醤油を紹介する場面ー
ツアーで醬油の蔵を訪問する時はもちろん、昼食で和食を食べるときや、お土産で醤油を買うときなど、海外からの旅行者を案内する際に醬油について伝える場面はいくつか考えられます。
この記事ではそのような時に備えて、醤油の醸造工程と、醤油蔵や工場見学の際に気をつけるべき点について紹介します。醬油そのものは身近な存在であるものの、一連の工程は日常生活においては知る機会はほとんどないため、よく理解した上で案内する必要があります。
2. 醤油の製造工程
蔵や工場によって醤油の造り方は異なりますが、ここでは一般的に共通する製法を紹介します。具体的には以下のような工程で、6〜8ヶ月程をかけて完成します。
原材料
醤油の原材料は塩水、大豆、小麦です。醤油の産地の多くが、これらの原料が手に入りやすい場所に位置しています。
醤油の醸造は、原材料である大豆と小麦の準備からはじまります。まず大豆を高温で蒸します。蒸すことで、殺菌をしつつ、酵素(化学反応を促進するもの)の影響を受けやすい形に変えます。
また、小麦は選別後に炒って砕きます。こちらも炒ることで酵素の影響を受けやすくなり、砕くことで酵素の影響を受ける範囲を広げられます。
製麹(せいぎく)
原料の準備ができると、醸造の工程へ入ります。製麹とはカビの一種である麹菌を原材料に繁殖させることです。蒸した大豆と炒って砕いた小麦を混ぜ合わせ、そこに麹菌のもととなる種麴(たねこうじ)を加えます。その後、製麹室へ運びます。製麹室は菌が繫殖しやすい高温多湿に保たれています。3日間ほどかけて麹菌が増え、醤油麹へと姿を変えます。
発酵・熟成
醤油麹を製麹室から取り出し、食塩水を加えます。これを「もろみ」といいます。もろみにすると麹菌の繁殖が止まり、麹菌の作り出した酵素が働きはじめます。
もろみを樽に入れて1週間ほどが経つと、酵素の働きで大豆のたんぱく質はアミノ酸に、小麦のでんぷんはぶどう糖へと変化していきます。
アミノ酸は醤油のうま味となり、ブドウ糖は甘みに変わります。ちなみに、アミノ酸とブドウ糖の一部が反応して、醤油の赤みのある褐色へと色が変わります。
その後、空気中に存在する乳酸菌と酵母菌がもろみの中に入り発酵が進みます。発酵とは微生物の働きにより、人間にとって有益なものへ変化することです。逆に有害なものになることを腐敗と呼びます。乳酸菌によって醤油に酸味が生まれ、酵母菌によって深い香りが加わります。
発酵の過程では、最初に乳酸菌が活動をはじめ、後を追うように酵母菌が働き出します。熟成が進み、数ヶ月経つと、微生物の働きはほとんどなくなり、もろみ全体が調和のとれた状態となります。
圧搾(あっさく)
出来上がったもろみを布で包み、絞る工程を「圧搾」や「搾り」と言います。布でこして液体と醤油粕に分離させていく方法が一般的なものです。
江戸時代の製法では、袋にもろみを入れて、それを積み重ねて上から圧力をかけていました。現在の製法では、風呂敷にもろみを注いで座布団を重ねて上から圧力をかける方法や、醤油工場でプレス機を使う方法もあります。
この圧搾の工程で、もろみは生揚げ醤油(きあげ)と醤油粕(かす)に分かれます。醤油粕には塩分が多く含まれており、酒粕と違ってあまり美味しいものではありません。
火入れ
圧搾して出来上がった生揚げ醤油に熱を加える工程を火入れと言います。目的としては、乳酸菌や酵母菌といった微生物の活動を止めること、分解されなかったたんぱく質を滓(おり)として固めること、火香(ひが)とよばれる匂いをつけることが挙げられます。火入れの温度や時間の調整によって、微妙な味の違いが生まれるため、醤油蔵によっては製法を門外不出としているところもあります。
圧搾後に火入れを行わずに、生揚げ醤油から醸造に使用した微生物を精密な膜により除去する工程を「ろ過」といいます。「火入れ」を行わずに、「ろ過」した醤油は「生醤油」と言われます。
以上が醤油の醸造工程ですが、もろみの製造段階までは味噌と醤油の醸造方法はほぼ同じです。醤油は味噌の製造の際に発見された説が有力ですが、醸造方法の点からも味噌が醤油のルーツであることがうかがえます。
3. 醤油蔵・工場見学のポイント
醤油の醸造工程についてここまで説明してきましたが、ここからは醤油蔵や工場を見学する際のポイントについて説明していきます。
まず、醤油蔵や工場の見学において気を付けるべき点は、旅行者への大豆・小麦アレルギーの確認です。上記の通り、醤油や味噌は小麦と大豆を使い醸造されているものです。見学前には必ず旅行者のアレルギーの有無を確認しましょう。アレルギーがある場合には現地を訪れた際に、スタッフの方に伝えてください。
醤油は微生物の活動によって醸造される食品のため、菌類による影響を大きく受けます。なかでも納豆に使われる納豆菌はとても繁殖力が強いため、醤油づくりの邪魔をしてしまうこともあります。醤油蔵によっては納豆を食べた後の見学を禁止している場合もあるため、注意が必要です。
また、製造業者は厚生労働省が規定した衛生基準であるHACCPに沿った管理が義務付けられています。蔵や工場では様々な安全・衛生面の取り組みがされており、工場によってはSQF(Safe Quality Food)といった国際認証を受けています。見学の際は食品を扱う場所であることを意識し、清潔を心がけましょう。
4. おわりにー関連記事の紹介ー
この記事では醤油の製造工程と、醤油蔵や工場を見学する際のポイントについて紹介しました。旅行者を案内する際は、まずは工程全体を概観として理解してもらいつつ、たんぱく質を分解する麹菌、酸味に繋がる乳酸菌など、それぞれ菌類の役割を伝えましょう。
また、ツアー中には醤油の歴史や関連する日本の食文化に関する質問を受けることもあります。ガイドナビでは、そのようなテーマを扱った記事も掲載していますので、参考にしてください。