【醤油】醤油の基礎知識を学ぼう~歴史から海外の醤油文化まで~

ナレッジ

1. はじめにー日本の食文化を支える醤油ー

筑前煮和食の味付けの特徴として、素材本来の味を活かすため、強い香辛料を使用しない点が挙げられます。その代わり、和食の味付けは「うま味」によって支えられています。「うま味」とはアミノ酸の一種であるグルタミン酸が主成分で、甘味、酸味、塩味、苦味に続く5番目の味とも呼ばれています。醤油は料理に「うま味」を与え、だし汁を整えるなど、和食には欠かせない調味料です。

醤油を旅行者に説明する上では、地域の特徴的な醤油、製造工程など様々な角度から伝えることが可能ですが、この記事では醬油の歴史的背景と海外の醬油に関連する食文化を紹介します。

2. 醤油の歴史

発酵中の醤油ここでは醤油のルーツである醤の伝来から、現在の醤油の形となるまでの歴史を紹介します。旅行者に伝える上では、ルーツには諸説があることや味噌との関連性などがポイントとなります。

醤の伝来

醤油の起源は中国の「醤(じゃん)」にあるとされています。「醤」というと豆板醤や甜面醤、コチュジャン等が思い浮かぶ方も多いと思います。

記録に残る最古の「醤」は魚や肉を塩漬け、発酵させたものやそこから出来る汁を指すもので、現代主流である穀物を発酵させて作るものとは異なるものでした。醤は食品を塩漬けにして作られることから保存性が高く、食品の持つタンパク質を発酵によりうま味成分に分解出来ることから、世界の様々な地域で作られました。

紀元前700年頃の中国でも「肉醤」や「魚醤」が使われていた記録が残っています。そこから遠く離れたローマ帝国でも、魚の内臓を塩漬けにした「ガルム」が製造されていたことがわかっています。

日本で醤が記録に出てくるのは奈良時代のことです。当時の法典「大宝律令」の中の記録によると、「醤院(ひしおのつかさ)」という組織があり、肉醤(ししびしお、肉の塩漬け)、草醤(くさびしお、漬物に似たもの)、そして穀醤(こくびしお、味噌や醤油に似たもの)が作られていました。
少なくとも奈良時代の日本ではすでに醤(ひしお)は一般的なものであったと思われ、日本に醤が伝わったのはそれ以前、弥生時代頃ではないかと考えられています。平安時代の食事にも醤が調味料として卓上にありましたが、醤から醤油と味噌に分かれていくのはもう少し後になってからです。

醤から味噌、醤油へ

醤が味噌、醤油へと形を変えた時期については諸説ありますが、鎌倉時代の僧が中国から「金山寺味噌(きんざんじみそ)」の手法を伝えたのが代表的な説の一つです。

金山寺味噌は紀州(和歌山県)湯浅地域の寺に伝わり生産されました。金山寺味噌はそれまでもあった「醤」やおかず味噌とは違い、素材を蒸し、麹を併せ醗酵し、重石をして熟成させるという複雑な工程で作られていました。重石を使って熟成する段階で味噌から水分が出てきます。この水分からは大豆などの旨味が染み出していて、舐めてみると美味しかったことが醤油の発見とされています。

その後、醬油が普及し、室町時代後期、1535年には大阪へ醤油が出荷された記録が見られ、その頃にはすでに関西を中心に醤油が広がっていました。江戸時代に入る頃には、日本全国へ醤油と醤油の製法が広まり、特に江戸では「濃口醤油」が広まりました。そばや天ぷらや蒲焼きなどの料理は江戸時代に誕生したと言われていますが、これらの料理は醤油なくしては生まれないものでした。

3. 外国の醤油と使用方法

海外の醤油日本における醤油の歴史についてここまで紹介しましたが、海外、特に中国、韓国、タイなどアジア諸国にも醤油と似た調味料が存在します。使用方法や料理例などを知っておくと、旅行者にとって身近な調味料と関連させながら、説明ができるようになります。

中国

冒頭でも紹介したように、中国では現在も豆板醤や甜面醤といった調味料が使われていますが、これらは醤油よりもむしろ味噌に近い調味料です。

中国にもメーカー毎に「醤油」はありますが、日本のものと比べると全般的に発酵時間が短く、色が濃いものが多いことが特徴です。スパイスなどをブレンドして販売されることもあります。使用方法としては、炒め物の味付けに使われることが多いです。

韓国

韓国にも醤油があります。漢字は同じで醤油と書き、「カンジャン」と呼ばれます。料理によって使い分けをします。多くのメーカーの商品が販売されている点は日本の醤油と似ています。以下が代表的な韓国の醤油で、日本の薄口醤油、濃口醤油、たまり醤油のように使い分けがされています。

汁醤油(クッカンジャン)

色が薄く、素材本来の色を残しながら主にナムルやスープの味付け等に用いられます。

陳醤油(チンカンジャン)

塩分が少なく色が濃く、熱を加えても味の変化が少ないもので、カンジャンケジャンなどの料理に用いられます。

醸造醤油(ヤンジョカンジョ)

熱を加えずにコクを味わう醤油です。和え物や刺身に多く用いられます。

タイ

タイには大豆を使用した醤油(シーユー)があります。ちなみにタイの調味料というと「ナンプラー」を思い出される方もいると思いますが、ナンプラーは魚からつくられた魚醤で、日本では石川県の「いしる」や秋田県の「しょっつる」がそれに近い調味料です。

シーユーカオ

炒め物や煮物に使われるもので、日本語に直訳すると「白醤油」。日本の醤油と比べると塩味が少し強いです。

シーユーダム

シーユーカオに蜜を足して甘くした醤油。料理のコクや甘み付けに適しており、肉の煮込み料理などに使われます。

シーズニングソース

シーユーカオに砂糖を足して味を調えた醤油。主に卓上に置かれており、ガパオライス等の料理に自分の好みで使う卓上調味料として親しまれています。

インドネシア・マレーシア

インドネシアやマレーシアでは調味料として「ケチャップ」が使われます。日本ではトマトケチャップが有名ですが、インドネシア語でケチャップはソース全般を指す言葉です。ケチャップマニスは大豆と小麦を発酵させ、糖類や塩を加えたもの。醤油というよりはタレのような甘くとろみがある調味料です。

4. 代表的な産地と観光

醤油の蔵長い歴史の中で日本の各地に伝わった醤油ですが、現代の日本では醤油の主な生産地として、千葉県銚子市・野田市のエリアや兵庫県たつの市、香川県の小豆島が挙げられます。

千葉県銚子市・野田市

「キッコーマン」や「ヤマサ醤油」など、日本の代表的な醤油メーカーの本社があります。水運の便が良く、原料の調達や東京への出荷に便利であったことから醤油づくりが発展しました。主に濃口醤油を多く生産しています。

兵庫県たつの市

兵庫県西部、播磨地域に位置している街です。周辺の播磨平野から豊かな小麦、山間部からは大豆、赤穂の塩、そして清らかで鉄分の少ない水があることから、特に薄口醤油を作るのに適した環境であるとされています。「ヒガシマル醬油」の本社があります。

香川県小豆島(小豆島町・土庄町)

瀬戸内海に浮かぶ小豆島も醤油の生産地として有名です。島には「マルキン忠勇株式会社」の本社があります。温暖な小豆島の気候は醤油づくりに欠かせない麹(こうじ)の発酵に適し、海運によって原料を調達しやすく、大阪へ出荷しやすいことから醤油づくりの産地として発展していきました。

これらの醤油生産地では、多くの企業で工場見学が実施されており、予約をすれば製造工程を間近で見ることができます。また、企業によっては資料館や記念館を運営しているところもあります。

5. おわりにー案内する上でのポイントー

実際に醤油のガイドを行う際は資料館や工場見学も利用しながら、日本の食文化に醤油がどのような影響を及ぼしたのか、案内する地域で醤油づくりが盛んになったのにはどのような背景があるのかなどを深掘りした上で解説をすると、旅行者にとって興味深い案内になると思います。
ガイドナビではこのほか醬油に関する記事に加えて、日本の食文化を取り上げた記事も掲載しているので、ぜひチェックしてみてください。



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