【日本の料理】無形文化遺産に登録された和食の歴史と特徴を知る

ナレッジ

1. はじめにー世界の料理と和食の発展の共通点ー


人類は長い歴史のなかで、国・地域によってさまざまな食文化を育んできました。その代表格として世界三大料理があります。世界三大料理としてフランス料理、中華料理、トルコ料理が挙げられますが、それぞれ宮廷料理として発展し、領土を拡大してきた歴史のなかで様々な地域に広がっていきました。

例えば、トルコ料理は、原型となる宮廷料理をベースにしつつも、アラブ、ギリシャ、東ヨーロッパなどの地域の食文化を取り入れて発展しました。日本も、中国の食文化の影響を受けながら、四季折々の変化や地理的な特徴を生かして、独自の食文化を築いてきました。現在では栄養バランスに優れていることなどが評価されて、海外で和食の人気が高まっています。そのような背景もあり、和食を食べることは海外からの旅行者が日本での滞在中にしたいことの上位にランキングされています。

この記事では和食の魅力を伝えるうえで、ガイドとして知っておきたい基礎知識として、和食の歴史や成り立ち、和食の特徴について紹介します。

2. 和食の歴史と成り立ち


和食はどのような歴史を経て、今のような形になったのでしょうか。ここでは時代を3つに分けて、現在の和食と関連する内容を紹介します。

原型は古代から

縄文時代から平安時代にかけての料理には、現代の和食とは異なる点が多く見られますが、時代ごとに要素を見ていくと、現在に繋がる点も見られます。

例えば、米は弥生時代(紀元前4世紀頃~紀元後3世紀中頃)に主食となりましたが、あわせて魚や貝、山菜なども食べられていました。これはご飯とおかずを食べるという今の和食のスタイルに通じます。また、興味深いことに、中国の歴史書によれば、日本に住む人は生魚を食べているという趣旨の記録があり、日本人は2,000年近く前から刺身を食べ続けている、と伝えることもできます。

一方で、狩猟採集の時代から日本では肉を食べる習慣がありました。しかし、仏教が伝来した影響もあり、7世紀には天武天皇によって、肉食を禁止する法令が出されました。その結果、魚や大豆などでたんぱく質を摂取する食文化が形成されていくことになりました。

伝統的な和食が完成したのは江戸時代

記事の冒頭で、世界三大料理のルーツは宮廷料理にあると紹介しました。日本でも同様に、貴族や武士など階級の高い人たちが食べる料理から、形式が決められていき、現在私たちが食べる旅館や日本料理のお店で食べる会席料理へと繋がっていきました。ここでは、会席料理を含めて代表的な5つの料理を紹介します。なお、懐石料理と会席料理は読み方が同じで、混同されることもありますが、異なるものですので注意ください。

大饗料理

最も古い形式のひとつが平安時代に貴族が食べていた大饗(だいきょう)料理になります。 公家社会、特に貴族の社交の中で確立した儀式的な料理です。中国の唐の食文化に影響を受けたものです。小さなお皿が数多く並べられ、それぞれに料理が盛りつけられました。武士が実権を持つ鎌倉時代には衰退し、儀式的な要素は本膳料理へと引き継がれました。大饗料理の形式は神様への供え物である「神饌(しんせん)」にその一部が残っていると言われています。

精進料理


仏教の戒律にもとづいて、動物性の食材やニラやニンニクなどネギ属の野菜の使用を禁じた料理です。仏教の伝来ともに原型は日本にはありましたが、料理として発展したのは禅宗が流入した鎌倉時代以降と言われています。特に煮物料理を工夫する中で、出汁(だし)を用いる食文化が確立され、ほかの料理にも使われるようになりました。
ちなみに、だしに関する歴史は 14世紀には昆布出汁が使われた記録があり、その後、江戸時代になると、昆布とかつお節を合わせた出汁に関する記述があり、この頃には出汁を使った精進料理が食べられていたと考えられます。

本膳料理

武家を中心とする社会で発展した料理です。大饗料理の儀式的な要素取り入れつつ、精進料理の技術的要素が混ざっています。室町時代に成立したと言われ、食べきれないほどの量を盛りつけたり、見た目を重視するなどの特徴があります。神道式の結婚式で新郎・新婦や親族が酒を酌み交わす三三九度は、本膳料理で行われる儀式の名残だと言われています。

懐石料理

茶事や茶会の席で出される料理で安土桃山時代に確立しました。本膳料理の一部を切り出したもので、料理を一品ずつ運んだり、わびさびの美意識を料理で表現します。また、料理や器にも季節感を取り入れることも大切にしています。

会席料理


会席料理は精進料理・本膳料理・懐石料理の要素を総合的に取り入れてできたものです。会席とは元々は連歌や俳諧の席のことでした。会席は江戸時代以降には現在の料亭、割烹(かっぽう)で行われるようになり、そのような場に向いた料理へと発展しました。特にお酒を楽しめるような料理の形となっています。

西洋料理を取り入れた近代

伝統的な和食とは異なった料理が誕生したのが近代です。19世紀の中頃から日本は開国し、諸外国との貿易が活発化しました。その結果、西洋や中国などの食文化が流入しましたが、日本人はそのまま取り入れることはせずに、和食と融合させていきました。

例えば、牛肉はステーキのまま食べるのではなく、牛鍋(現在のすき焼き)にすることで、牛肉を食べる習慣が定着しました。中華街で食べられていた麵料理に醤油や味噌を入れたり改良を加えることで誕生したのがラーメンです。
このほかにも、イギリスのソースを改良して、さまざまな料理に使うことでとんかつ、焼きそば、お好み焼きといった料理もできました。
これらの料理は、現代の日本では日常的に食べられる料理として定着していますが、西洋諸国との関係が深まるなかで、日本人の創意工夫のなかで生み出されたものです。

3. 和食の特徴-ユネスコ無形文化遺産への登録ー


和食は2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されたことにより、国際的な関心が高まっています。国土が南北に長く、四季が他国と比べて明確な日本は、各地域ごとに旬の食材を使った料理が確立しています。以下の4つが和食の代表的な特徴として挙げられます。

  1. 多様で新鮮な食材と素材を活かす調理
  2. バランスが良く、健康的な食生活
  3. 旬の食材と四季の美しさの表現
  4. 年中行事と料理との関わり

多様で新鮮な食材と素材を活かす調理

日本は、海では漁業により魚介類や海藻類がとれ、陸地では農業、畜産業により野菜や肉牛などが食材として手に入ります。多様な食材を生かして、焼く、揚げる、煮るなどの調理法が発達しました。また、味噌などの発酵食品を使って長期保存できるような工夫を重ねてきました。

バランスが良く、健康的な食生活

和食には日本人の主食であるご飯、汁物、3つの菜(おかず)を組み合わせた「一汁三菜」という基本形があり、栄養素をバランスよく摂取できるようになっています。近年、欧米で起きている和食ブームの一因はこの栄養バランスにあります。本膳料理や懐石料理などの伝統的な食事のスタイルにも一汁三菜の考え方が息づいています。

旬の食材と四季の美しさの表現

和食ではその食材が最も美味しい時期である「旬」を大切にします。四季折々の草花を使った盛り付けや、季節に合わせた食器を使うなどの工夫を凝らします。例えば、秋であれば焼いたさんまを彩りのある食器に載せ、赤く色づいた葉を添えて季節感を表現します。

年中行事と料理との関わり

日本では正月やお盆など季節の行事や祭りの際には、日常とは違った特別な料理を味わいます。家族や地域の人たちと一緒に食事をして、自然や神様に感謝しながら健康や幸せを願います。代表的なものに正月のおせち料理や端午の節句に食べる柏餅などがあります。

4. おわりにー曖昧な和食の定義ー

多彩な魅力がある和食ですが、実ははっきりとした定義がなく、専門家の間でも解釈が分かれていると言われています。ユネスコの無形文化遺産に登録された和食では「日本人の食における様々な社会的習慣」と広い意味で捉えられているため、日常生活で食べられるようなカレーやラーメンのように、外国文化の影響を受けながらも、日本独自の発展を遂げた料理も和食と解釈できます。
和食と並んで日本の食べ物を言い表した表現に、日本料理があります。和食も日本料理も近代に日本に入ってきた西洋料理と区別するために生まれた言葉ですが、和食は日本の食文化全体を指す傾向があり、対して日本料理は料亭で提供される高級料理など、ある程度意味を限定する傾向にあると言われています。
旅行者を案内する際は、伝統的な和食が室町時代から江戸時代を中心に確立したことや、現代の日本人が日常的に食べる料理は明治時代以降に誕生したものが多いことを説明しましょう。
ガイドナビでは日本の代表的な料理に関する記事も掲載しているので、参照ください。また、醤油をはじめとした食文化にまつわる記事もあります。



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