【コラム】英語 全国通訳案内士/細川治子(いろいろガイドの輪)

エピソード

四国からこんにちは。高松市在住の細川治子と申します。2016年に長年勤めた新聞社を退職し、英語の通訳ガイドになりました。

転職の理由はいろいろありますが、高松が気に入って、これ以上転勤したくなくなったことが大きいです(笑)。出身地の東京のほかに長野、福岡、京都など、入社以来、引っ越しを10回経験しました。最後に赴任したのが高松でした。住みやすさ、温暖な気候など、いろいろ理由はありますが、遍路に代表される四国のホスピタリティが決め手になりました。

遍路は、1200年前に弘法大師が修行した足跡をたどり、88カ所の霊場をまわる巡礼です。記者として、さまざまな動機で巡礼する人たちにたくさんインタビューしました。遍路の本を出版した日系ブラジル人の方はこう言いました。「四国には私が思い描いていた日本がある」。実際、外国人の歩き遍路の数は年々増えていました。言葉の壁、宗教の違いなどハードルは高いはずなのに…。
このユニークな伝統を海外に伝え、四国のために働きたい…。いつしかそんな気持ちが芽生え、セカンドキャリアのために全国通訳案内士の資格をとりました。

会社を退職したら早速、歩き遍路を始めました。足のマメや筋肉痛と闘いながらの1200キロ。ご褒美は、海に沈む夕日の絶景や、住民の方がくれた栄養ドリンクや果物などの「お接待」です。宿や道の駅で地元グルメも楽しみました。四国の多様性に富んだ自然・文化を体感し、人の温かさに触れる40数日間でした。日系ブラジル人の方が言っていた意味がわかるような気がしました。
それから巡礼という旅のスタイルにはまり、遍路を終えて半年後にはスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラへ行きました。世界遺産になって巡礼者は急増、「聖地が観光地化した」と批判はあるものの、過疎地が活性化したさまが印象に残りました。空き家をたくさん目にした四国の遍路道とは対照的でした。スペインで遍路のことを知る人も多いことを知り、「次は四国に来てください」と日本から持参したパンフレットを配り歩きました。東西二つの巡礼は、ガイドとしての視野を広める貴重な体験になりました。

専業ガイドとして働き始めたのは18年春からです。インバウンド・ブームの波に乗り、仕事は順調に増えていきましたが、四国での就業は現代アートの島として人気の直島を除くと多くはなく、繁忙期は本州に出張していました。
四国は2015年にニューヨーク・タイムスが毎年発表している「世界の行くべき52カ所」に選ばれたことがあります。遍路文化が紹介されました。また、2019年には直島などを舞台にした瀬戸内国際芸術祭の開催年であったこともあり、四国を含む「瀬戸内の島々」がリストの7番目に登場しました。しかしながら、これだけ注目されても、必ずしも来客につながってないのが課題でした。
地元の仕事を増やすためにも行動を起こさなくてはーーと考え、2021年に友人と2人で合同会社Your Tour Guideを起業し、通訳ガイドの育成に取り組むことにしました。決断を促したのはコロナ禍です。旅行や研修を通して四国の価値を再認識するなかで、ローカルガイドを志した原点に戻ろうと思ったのです。

今年、高松にある国立公園・屋島を舞台に通訳ガイド講座を始めました。観光施設の方や翻訳家らを講師に招き、どうすれば外国人ゲストの満足度が上がるかを研究しています。インバウンド以外にも、タクシー乗務員の研修や自治体所管のガイド養成などを請け負い、多彩な人々と共に学ぶ機会に恵まれました。「地元の良さを伝えたい」という熱意にあふれた参加者から、大いに刺激を受けています。今後はインバウンドに関わるいろんな事業者さんと協力しあい、四国を元気にしていきたいです。

私のバトンは山梨県の松井由美子さんへ渡します。研修でお会いした時、まわりを明るくする太陽のような存在感が印象的でした。松井さんの登場が楽しみです。

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