【コラム】「どうするガイド!?困ったときに頼むのは…」(ガイドの語る場・喜怒哀楽)

エピソード

このコーナーでは、毎回異なるテーマを設定して、数名のガイドで座談会を行っています。経験して嬉しかったことや、大変だったこと、心に残る思い出などを語って頂いています。
今回は3名の全国通訳案内士の皆さんに、「どうするガイド!?困ったときに頼むのは…」のタイトルでお話しして頂きました。

出席者:

・青井千里(英語 全国通訳案内士、埼玉県在住 2014年よりガイド業務)
・佐々木圭子(英語・イタリア語 全国通訳案内士、神奈川県在住 2014年よりガイド業務)
・三田宏和 (英語 全国通訳案内士、東京都在住 2018年よりガイド業務)

司会: ガイド業務の中では色々と困った事態に遭遇しますね。今日は某ドラマのタイトル風に「どうするガイド!?困ったときに頼むのは…」のテーマでお話し頂きます。まずは佐々木さん、いかがでしょうか。

佐々木: やはり筆頭は食事についてのトラブルですね。ツアーの前には確認しているのですが、それでもいざ店に着いた時に食事制限のあるお客様が判明して大慌て、ということがありました。

青井: 私も「このお客様は生魚はダメ」と事前にレストランに連絡をしておいたにもかかわらず、出て来て困ったことがありました。そのお店は「アレルギー特定8品目には対応するが、それ以外の特別対応はしない」という姿勢でした。

三田: インド系の団体ツアーをご案内した時のことです。ヒンズー教徒やイスラム教徒の方もいらっしゃるので、予めそれぞれの教義に則した肉料理を準備して頂いたのですが、「ベジタリアン料理の方がいい」と言うお客様が何人かいらっしゃり、大混乱になりました。

司会: 皆さん大変な思いをされましたね。そんな時は「困ったときのシェフ頼み」をされるのですか?

佐々木: 日本の飲食店は、当日その場でのリクエストへの対応は、難しいですね。お客様には、申し訳ないのですが、食事の一部をあきらめて頂くしかなく、ガイドも悲しいです。

三田: 私も、旅館の夕食の席についてから言い出されたことがあります。30人のツアーで、2名のお客様が「自分たちはベジタリアンだから、この料理は食べられない」とおっしゃるので、途方に暮れました。お客様は事前に旅行会社に伝えてあったそうですが、旅館にはその情報が来ておらず、代替のお料理はご用意できませんでした。申し訳ないことですが、この方たちは外に食事に出られました。

佐々木: 最近の話ですが、「魚は問題ない」と伺っていたアメリカ人のお客様に"たたき"をお出ししたところ、「中まで火を通してくれないか」と頼まれました。お店側は受け付けかねて「食べられなかったら残して下さい」と収めて下さいましたが、魚は魚でも調理法によって「これなら食べられる・これは食べられない」を事前に把握しておくべきだったのですよね。難しい!(苦笑)。

司会: 食事は旅行の最大の楽しみのひとつなのに、お客様にあきらめて頂くとは辛い経験ですね。

一同: 本当にそうです。

青井: 私、ツアーリーダーとバスの運転手さんを同時に怒らせてしまったことがあります。これはイスラエルからいらしたお客様でした。

司会: 何があったのですか?

青井: スルーガイド中の、東京から日光への日帰りバスツアーでしたが、前日ツアーリーダーに「明日のバス車中で映画『ラストサムライ』のDVDを観る」と言われた時に、うっかり了解してしまったんです。

司会: 著作権の問題に触れますね。

青井: そうなんです。当日運転手さんに一応確認しましたが、やはり「ダメだ」と却下されました。ツアーリーダーに著作権法上の問題があるとご説明しても「今までどこのツアーでもOKだった」と突っぱねるし、運転手さんは「そんなことをしたら、会社が大変なことになる」と取り付く島もありません。

三田: 運転手さんが正しいのですが、ガイドとしては困っちゃいますね。

青井: このツアーリーダーはとても強引で、「DVDを観られないなら、今日はこのまま東京に帰る!」とまで言い出すし、運転手さんは「絶対にムリ!」と譲りませんから、事は「日光に行くのか・行かないのか」まで大きくなってしまいました。

司会: それは出発前のことですか?

青井: いえ、出発後です。私は間に挟まれて右往左往でした。車中から電話で旅行会社に指示を仰ぎましたが、「『運転手さんがダメと言っているならダメ』と伝えて、ツアーリーダーに諦めてもらって下さい」という答えでした。

司会: うーん…

青井: 二人ともカンカンにご立腹のまま、ツアーは続行、そのまま日光に向かいました。
日光に着いてから、運転手さんに「あなたはガイドなのだから、これは著作権法上NGと知っているでしょ。僕にお願いする前にあなたが断っておくべきことだよ。」と、とても怒られました。全くその通りです。その日はとても肩身の狭い思いで過ごしましたが、時間が経つうちに二人とも機嫌が直って、最後には私に声を荒げたのは悪かったと思われた様子でした。翌日以降も同じ運転手さんでツアーを続けたのですが、お二人ともこの件を引きずることはなく、かえって親しくなれたように見えました。

司会: それはよかった。雨降って地固まる、ですね。

三田: ツアーでの運転手さんとの関係はとても大切ですよね。
最近の話ですが、15人のグループをバスで箱根にご案内したときのことです。大涌谷までバスで上って、大涌谷から桃源台まではロープウェーで下り、そこから芦ノ湖遊覧船に乗る、という予定でした。ところが、大涌谷駅を出発する時にうっかり桃源台行きではなく、反対側の早雲山行きのロープウェーに、つまり下りに乗るはずが上りに乗ってしまったんです!

一同: あぁ、それは大変!

三田: ロープウェーの車内で書類を確認していたら、大涌谷の火口が見えて喜ぶお客様たちの歓声が聞こえてきました。それで『ありゃあ、やっちまった』と気が付き、すぐにバスの運転手さんに電話しました。幸いバスはまだ大涌谷の駐車場にいたので、「申し訳ないが早雲山に来てほしい」とお願いしました。そのままロープウェーで折り返す選択肢もありましたが、遊覧船に間に合うかどうかギリギリのタイミングだったのです。
幸い、運転手さんには快く了解して頂き、早雲山到着後、それほど待つこともなくバスで余裕をもって桃源台へ移動、遊覧船に乗ることができました。
お客様と運転手さんには「ガイドのミス」と平謝りしましたが、お客様は大涌谷の火口をロープウェーから眺めることができて満足されたようでホッとしました。

司会: 困ったときの運転手さん頼みですね(笑)。今日は皆さんの貴重なお話、ありがとうございました。

一同: ありがとうございました!

編集後記: ガイドの仕事は一人で出来るものではなく、お客様はもちろん、旅行会社の担当者、バスの運転手さん、ホテルやレストランのスタッフなど様々な方々に支えられて成り立っています。三人三様、それぞれの経験を語って頂きましたが、似たような経験をされたガイドさんも多いのではないでしょうか。支えて下さる皆さんとの関わりを大切にしたいものです。

(司会・執筆:三浦陽一/GICSS研究会)

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