【コラム】通訳ガイド現場でのマナー、エチケット(ガイドの、ガイド)

エピソード

ガイド現場でのマナーについて、考えたことがあるでしょうか?
ガイドのマナーというと、お客様に対してのマナーの良し悪しだったり、旅行会社やツアーで利用する宿泊施設のほか、観光施設、交通機関などの関係者に対してのマナーを思い浮かべがちです。でも、実はガイド同士にも留意したいマナーやエチケットがあるのでご紹介したいと思います。

下記は、就業中のガイドさんに対する、同業者であるガイド、あるいはガイドを志す方や一部の一般の方にも当てはまるマナー違反の実例です。

某ガイド仲間が、浅草寺で変な体験をした…と呟いていました。
「雷門のあたりから、私達の外国人ツアーグループについて来る日本人女性がいました。途中で、『ガイディングがとても勉強になります』とおっしゃって、そのままずっと、解散場所となっている二天門までぴったり聞き耳を立てて付いていらっしゃったのです。真面目そうな感じではありましたし,guide to be で将来の仲間になる方かも知れませんが、私はとても不愉快な気分でした」。

一生懸命にお客様に英語で説明をして案内していると、まったく知らない他人が一緒に立ち止まってガイドトークに耳を傾けている時があります。「ん?誰だったかなあ?私のグループのお客様ではないな…」そう感じた経験は、私もこれまでに何度かありました。

それが一般の外国人の観光客だとわかる場合には、日本の事を知って欲しい気持ちが手伝って「…ま、いっかァ」とも思うのです。また、日本の観光ガイドの英語バージョンに興味を持ったらしい一般の日本人観光客の場合も、外国語でのガイド職業の宣伝だ!と思えばまだ許容範囲です。しかしながら、英語での説明内容やガイド技術を学ぶための参考として聞き耳を傾け、メモを取ったり携帯電話で録音までしているガイド修業中らしき日本人の姿には腹が立ちました。

我々は、お金を払ってガイディングを聴いて下さる方のために話すプロなのであって、放送局のアナウンサーではありません。ビジネスの競合相手となる立場の人が、他人が苦労して積み重ねて磨いた技術や情報のアウトプットノウハウをタダ聞きしたら、それは企業秘密を盗み取るのと同じじゃないか!と思うのです。

「すみません、ガイドを勉強中の者ですが、ちょっと聞かせて頂いても良いですか?」
と、もし一言声をかけていただければ、
「ごめんなさい、お客様のご迷惑になるのでご遠慮いただけますか」
とお断りするかもしれませんが、
「他のお客様に邪魔にならないように配慮をお願いします。録音はしないでくださいネ」
と、お答えする流れになるかもしれません。
「ありがとうございました。とても良かったです!」
最後にこんな風にお礼を言われれば、逆に
「あなたも頑張ってくださいね。ちなみに~~では~~と言う事もありますし…」
と、面倒見よくアドバイスしちゃったりする展開になるかもしれません。そこはガイドも人間ですから。(笑)

かつて某弁護士の先生が、ガイド内容は歴史や社会の事実を述べるわけだから著作権は派生しないとおっしゃったことがありました。しかし、同じ内容でもどのような順番でどのような言語表現を使ってどのようなジョークを交えて語るのか…というトーク手法については、各通訳ガイド個人が編み上げた技が反映されています。勝手にパクって良いものとは思いません。良い話を聞いたらあくまで参考として、自分自身のオリジナルトークを練り上げたいものですね。

ある時、私が事前に念入りに調べて得た地理に関する情報を聞いたガイド仲間が、人前でいかにも自分自身のオリジナルなネタであるかのように意気揚々と話すのを見て、内心穏やかでないことがありました。仲間内での情報はgive & takeという捉え方もありますが、以来、私は先輩から聞いたネタ話をするときは、オリジナリティを尊重し、
「これは仲間から聞いた話ですが…、TVニュースで見ましたが…」
など、出展先や出所を明確にして話すように心がけています。

大きな団体の際は、複数のガイドさん達が小グループに分かれて観光案内をすることがあります。そんな時には、同じ訪問地でも別れた小グループによって案内のしかたに格差が出すぎないように配慮するのが効果的です。案内の詳細ルート予定や目玉ニュースなどを、全ガイドと事前にすり合わせておくと、そのツアー業務全体に統一感が出て素晴らしいまとまりがでます。協調性のある協力姿勢を保つのもガイドのマナー・エチケットと言えるかもしれませんね。

以上のほかにも、請け負ったガイド料金は人や状況によって異なるので、ガイド同士で話題に出さないこととか、仕事を紹介された場合の御礼や報告を怠らない事など、気をつけたいことは様々あります。

お互いに気分よく快適に働く環境を守るため、ガイドのエチケット&マナーは意識してみましょう。

ランデル 洋子(全国通訳案内士/GICSS研究会 理事長)

名古屋出身。フリーランスの英会話講師、海外旅行添乗員・海外駐在員、通訳ガイド、ビジネス通訳、アラスカツアーオペレーター事業運営などを経たのち、株式会社ランデルズにてグローバル人材育成や通訳ガイドの派遣・研修業務に携わる。元アメリカ大統領親族のアテンドなど重要業務を歴任しつつ、オランダIOU大学で異文化情報学博士号を取得し、GICSSを創設。愛知万博では日本(政府)館VIPエスコートのトレーニング講師を務めるなど全国での講演、研修、執筆活動に従事。また観光庁の通訳ガイド関連の委員会委員を歴任。日本の通訳ガイド育成の第一人者と定評がある。

著書:「電話の英会話」「英語を使ってボランティアしたい」「外国人客を迎える英会話」「通訳ガイドがゆく」など11冊。

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