【コラム】通訳ガイドさんに、エール送ります!(ガイドの、ガイド)

エピソード

2023年インバウンドの超急激V字回復で、私どもにとっては3年ぶりの多忙な日々となりました。新人ガイドも現場デビューの機会となり、準備期間もないまま未経験の地域を案内せざるを得ないこともあり、個人客専門だったガイドが25名の団体客、それも7日間のロングツアーにチャレンジすることになったり…。それは皆、素晴らしい飛躍の機会であると共に、「きゃあ、地獄ウゥ…!」と悲鳴が聞こえる場面も少なからずあるようです。

繁忙期には事故やハプニングがつきものという想定内ではありますが、今春は、かつてないほど多発。皆様には是非、“体調管理と鉄の心” を持つ準備をして乗り越えて頂きたいと応援エールをお送りしたいです。

ガイド・サービス会社や派遣会社では、通常の繁忙期には、緊急時に備えて交替のガイド要員を抱えているところも多いのですが、今年はそのスタンバイガイドさんでさえ、3月半ばの時点ですべて出払い、その後は代替ガイドがいないピンチ状態になりました。ガイドなしでは来日するお客様は途方にくれてしまうので、ガイド探しは必死です。社長、部長など上層部の方々のあらゆる人脈を辿って様々な人から何度もSOSの切羽詰まった連絡が入ります。夜の8時に電話があって「明日の朝からガイドできる人がいないのです!」…なんとかお役に立ちたいのですが、心痛みながらお断りせざるを得ないのでした。

体の故障などで仕事を降りたガイドさんは、申し訳ないという気持ちで一杯でしょう。が、誰も好んで故障や骨折する訳ではないのでしかたないのです。そういう時は助け合いの精神を発揮。休みを返上して、頑張る季節到来なのです。自分にも突発的な事故が起こり得るので、そんな時を思えばお互い様ですね。

慣れたガイドにも苦労が絶えません。トラック輸送するはずだった30名分の荷物。前日にトラック手配が間に合わないことが発覚し、ガイドは30名分の宅配業者への伝票を手書きし、荷物を確認準備して送り出すという膨大な追加作業に追われました。携行Fund資金も足りません。

これは旅行会社の手配漏れが原因でしたが、その旅行会社も、担当者が連日終電まで働き続けた結果、疲労で倒れてしまい、滞った作業は代行社員がカバーする…当然、そこには漏れも発生、ミスも起きたという状況なのでした。

日程が直前なのに、「ツアーの詳細が送られて来ない!」と嘆くガイドさんがいました。これも旅行会社側の実情がてんてこ舞いだったからでした。お客様の名前も何も受取れないまま現場に送り込まれ、その場の指示で動くという状況では良い仕事はできるはずもなく、不安と怒りのモヤモヤで頭が潰れそうになりがちです。でも文句を言っていても始まらないので、とにかくベストを尽くしてやるっきゃない!現場を守るガイドの皆様のご苦労、穏やかでない気持ちがヒシヒシと伝わってきました。前向きに頑張って下さっている姿が多くて、頭が下がります。ほんとうにありがとうございます!

心が折れることもありましょう。主張の強い添乗員が無謀な要求をしてきて、「責任者を出せ!」と騒いだり…。「混んでいるから入場時は行列に並ぶことになりますよ」と伝えてあったのにも拘わらず、怒り騒ぎ、機嫌を損ね、ガイドが悪いからだとガイドのせいにして旅行会社にクレームをつけるお客様がいたり…。板ばさみになるのはガイドの宿命ですが、辛い思いもしますね。

他にももっといろいろあるでしょうが、異常な混雑・混乱が押し寄せて来てもガイド業務にはひとつ良いところがあります。永遠には続きません。ツアー日程が終われば良くも悪くもそこで終わり!何とか最終日まで頑張りましょう。その点、旅行会社の方々は、ツアーが終わってもまた別のツアーがあり、とめどなく年中試練が続くので大変だなあと思います。

厳しい試練を経たら、必ず人間力がアップします。精神力、忍耐力、応用力が鍛えられますね。厳しさを経験しておれば、トラブルがないツアーがどれほどラッキーで楽であるかがわかるようになります。文句も言わずに入場券を求める長蛇の列に並んで下さった優しい外国人観光客のお客様には、ほんとうに感謝の気持ちと嬉しさが増します。

「辛い坂は登り坂」、辛い坂を越して平坦で楽な道に至った頃には、今までなかった力が育まれ、強力なエキスパートになっていることでしょう。

こんなことがあった、あんなことがあった…人に話して気が楽になる事があります。仕事仲間、家族、知人など話せる相手がいると助かりますね。ガイドは人々に囲まれて一見、華やかな仕事ですが、実は孤独な仕事でもあります。ガイド組織、派遣会社など組織と繋がって動く場合には、そんな人の助け合いの輪があることが大きなメリットだと思います。

ちょっとやそっとのことは「大人の人間力と精神力」で、歴史的な2023年の春を乗り切りましょう。5月以降もまだ繁忙は継続しそうです。心より皆様の健康と発展を祈り、声援を送ります。

ランデル 洋子(全国通訳案内士/GICSS研究会 理事長)

名古屋出身。フリーランスの英会話講師、海外旅行添乗員・海外駐在員、通訳ガイド、ビジネス通訳、アラスカツアーオペレーター事業運営などを経たのち、株式会社ランデルズにてグローバル人材育成や通訳ガイドの派遣・研修業務に携わる。元アメリカ大統領親族のアテンドなど重要業務を歴任しつつ、オランダIOU大学で異文化情報学博士号を取得し、GICSSを創設。愛知万博では日本(政府)館VIPエスコートのトレーニング講師を務めるなど全国での講演、研修、執筆活動に従事。また観光庁の通訳ガイド関連の委員会委員を歴任。日本の通訳ガイド育成の第一人者と定評がある。

著書:「電話の英会話」「英語を使ってボランティアしたい」「外国人客を迎える英会話」「通訳ガイドがゆく」など11冊。

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