【世界遺産】「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産 ~吉野・大峯と高野山~

ナレッジ

1.はじめにー構成資産の分布ー

この記事では、世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道(さんけいみち)」の構成資産について紹介します。紀伊山地の霊場と参詣道は2004年にユネスコの世界文化遺産に登録され、国内では「琉球王国のグスク及び関連遺産群」に続き12例目の世界遺産です。和歌山県、奈良県、三重県にまたがり、23の構成資産が存在します。

地図データ ©2023 Google

構成資産は3つの霊場とそれらを繋ぐ巡礼道で成り立っています。奈良県中南部の「吉野・大峯(おおみね)」、和歌山県北部の「高野山」、和歌山県南部の「熊野三山」、そしてそれらを繋ぐ「参詣道」があります。共通して神道と仏教の融合させたこと、山岳地帯を信仰の場とした宗教文化が残されていることなどが評価されています。

構成資産が数多く存在することから、この記事では「吉野・大峯」と「高野山」に絞って、それぞれの構成資産の特徴について解説します。

2.吉野・大峯エリアの構成資産

地図データ ©2023 Google

「吉野・大峯」エリアには6つの構成資産があります。その多くが修験道の開祖とされる役子角(えんのおづぬ)によって7世紀後半に開かれたとされています。なかでも金峯山寺(きんぷせんじ)と大峰山寺(おおみねさんじ)、金峯神社(きんぷじんじゃ)は、重要な修行の場として信仰されてきました。吉野地域は朝廷や時の権力者との関係性も深く、奈良時代の天武天皇や14世紀の南北朝時代に天皇が逃れてきた場所としても知られています。また、吉水神社(よしみずじんじゃ)では、豊臣秀吉が5,000人を招いて、盛大な花見を行なった場所として知られています。明治時代に各地の修験道は大きなダメージを受けましたが、現在も吉野大峯地域は修験道の修行場として信仰を集めています。

吉野山


吉野山は奈良県の中央部、吉野郡吉野町に位置し、吉野川南岸から大峯山脈へと続く南北約8キロメートルほどの地域が該当します。古くから吉野山は雪と花の名所として知られてきた景勝地で、和歌をはじめとして多くの文学・芸術の舞台となったほか、豊臣秀吉が大規模な花見を行なったことでも知られています。山一面に広がる桜の花は、吉野山の金峯山寺などに祀られる蔵王権現(ざおうごんげん)のご神木として奉納されてきたもので、吉野山では現在も3万本に及ぶ桜を見ることができます。

吉野水分(みくまり)神社


吉野山の中腹にある、「子守宮(こもりみや)」とも呼ばれている神社です。創建の年代は不詳ですが、698年には雨ごいの祈願が朝廷により行なわれた記録が残っており、古くから水の神として信仰されてきた歴史を持っています。また、「みくまり」は「みこもり」「御子守り」と訛ったことから、平安時代中期頃からは子授けの神としても信仰されるようになりました。現在見られる社殿は1605年に豊臣秀頼によって再建されたものです。これは豊臣秀吉が子授け祈願を吉野水分神社で行なった後に、子の秀頼を授かったことから、秀頼が秀吉の遺志を継いで社殿の再建を行なったもので、桃山建築の華麗な造りとなっています。

金峯(きんぷ)神社


吉野山から大峯までのエリアの地主神である金山毘古命(かなやまひこのみこと)を祀っている、吉野山の中でも奥まった地域にある神社です。創建の経緯や時期ははっきりとしていませんが、生物の枯死を防ぐ神、黄金の神として信仰されてきたほか、中世以降は修験道の行場としても信仰されてきた歴史を持っています。

金峯山寺(きんぷせんじ)


吉野山にある修験道の寺院で、後述の大峯山寺が「山上の蔵王堂」と呼ばれるのに対してこちらは「山下(さんげ)の蔵王堂」と呼ばれています。もともと「金峯山寺」という名称は、この寺院だけではなく、吉野から大峯までの一帯の修行場全体を指していました。寺の創建は7世紀後半で、本尊の蔵王権現(ざおうごんげん)は通常非公開ですが、約7mの巨大な像として知られ、「日本最大の秘仏」とも称されています。蔵王権現は修験道に独自の尊格で、修験道を開いた役小角(えんのおづぬ)が金峯山での修行中に祈りによって出現させたと伝わっています。

吉水神社


奈良時代に金峯山寺の付属寺院「吉水院」として役小角により創建されたと伝わっている建物です。南北朝時代には吉野に逃れた後醍醐天皇が一時御所とし、豊臣秀吉の花見の際には、花見の本陣ともなった由緒があります。現在も残る名勝の庭園は、花見の際に秀吉自らが作庭したものと伝わっています。明治時代の神仏分離令により金峯山寺を離れ、後醍醐天皇らを祀る神社として整備が進められました。境内からの景色は「一目千本」と称されており、吉野山の桜を一望できる名所となっています。

大峯山寺(おおみねさんじ)


吉野町から南に20キロ離れた吉野郡天川村の大峯山山頂にある寺院です。7世紀後半に金峯山寺と共に役小角により創建されたと伝わっており、金峯山寺と同様に本堂には蔵王権現が祀られています。大峯山頂は古くからの祭祀の場であったために数多くの遺物が残されており、「山の正倉院」と呼ばれることもあります。金峯山寺から大峯山寺、そしてその先の熊野本宮大社へと至る道は「大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)」として、修験道における修行の道となっており、現在も山内の「女人結界門」から先は女人禁制となっています。本堂へのアクセスはルートにより多少の差はあるものの片道約3~4時間の登山が必要なため、訪問の際は入念な事前準備が求められます。

3.高野山エリアの構成資産


「高野山」エリアには4つの構成遺産が存在します。高野山は真言宗の開祖・空海が平安時代初期に開いた、金剛峯寺(こんごうぶじ)を中心とした宗教都市です。空海の死後も高野山はこの世に存在する仏様の国として、多くの人々からの信仰を集め、貴族や戦国武将などの有力者に帰依したために、日本仏教の聖地の一つとして繁栄してきました。長らく修行の場所として女人禁制とされていたため、麓には女性が高野山参りをする慈尊院(じそんいん)が整備されたほか、空海を高野山へ導いた神として、丹生官省符神社(にうかんしょうぶじんじゃ)、丹生都比売神社(にうつひめじんじゃ)の2社も崇敬されてきました。

丹生都比売神社(にうつひめじんじゃ)


高野山の北西、和歌山県かつらぎ町にある神社で、別称として「天野大社」「天野四所明神」という名前でも親しまれています。空海が金剛峯寺を建立する際に、土地の寄進を行なったと伝えられるなど、高野山と深い関係にある神社で、高野山参詣前には丹生都比売神社に参拝する習わしがありました。主祭神は丹生都比売大神で、もともと「丹」、すなわち硫化水銀の採掘に携わる人々を祀っていた神でしたが、徐々に水神としての性格を持っていったとも考えられています。

金剛峯寺


和歌山県高野町にある高野山真言宗総本山の寺院です。平安時代に空海が開山して以降、真言密教の聖地、空海信仰の聖地の山として、日本仏教の中でも特異の地位を築き、現在に至っても多くの参詣者を集めています。「金剛峯寺」という名前は現在では寺院の名称として認知されていますが、元来高野山全体が修行の場、金剛峯寺のエリアとして認識されてきました。山内では根本大塔や壇上伽藍(だんじょうがらん)といった高野山のシンボル的な寺院建築の他に、現在も空海が瞑想しているとされるお堂へ続く「奥の院」と呼ばれる墓域があり、その独特の雰囲気が観光客にも人気のスポットです。

慈尊院


高野山の麓、和歌山県九度山町にある高野山真言宗の寺院です。高野山の政務を司ってきた歴史を持ち、高野参詣道町石道の登り口に近い場所に境内が位置しています。かつて高野山金剛峯寺が女人禁制であった頃、女性の高野山参りの場所として賑わっていたため、「女人高野」とも呼ばれています。女性の参詣者達によって奉納された乳房型の絵馬は全国的にも珍しいものです。

丹生官省符神社(にうかんしょうぶじんじゃ)


慈尊院から高野山に向かって参詣道を登った先にある神社です。空海が真言密教の道場を開こうと各地を歩いていた際に、猟師の姿に扮したこの神社の神様に高野山の場所を案内された伝説があり、そのために高野山とは強い繋がりを持っている神社です。明治時代までは慈尊院と一体として信仰を集めており、境内には様々な仏教関連施設が建ち並んでいました。

4.おわりにー旅程を検討する際のポイントー

ここまで吉野・大峯と高野山におけるそれぞれの構成遺産の特徴について紹介しました。紀伊山地の霊場と参詣道の構成遺産は、分布する範囲が広いことに加えて、狭い山道を通る必要があるなど、アクセスには注意が必要です。

なお、今回紹介したエリアについては、登山が必要な大峯山寺やバスの本数が限られる丹生都比売神社を除いては、バスや電車などの公共交通機関を利用しての訪問も十分可能ですので、選択肢の一つとして検討しましょう。吉野山、高野山、高野口周辺など主要なスポットを訪問する想定であれば、2日程度あれば周遊することが可能です。観光ルートとしては、吉野山であれば金峯山寺、高野山であれば金剛峯寺を中心、周辺の見どころを含めて数時間程度で立ち寄るのが一般的です。

紀伊山地の霊場と参詣道が世界遺産に登録された理由など、世界遺産の全体像に関する内容や、熊野三山と参詣道の構成遺産については、別の記事で解説していますので、興味のある方はそちらを参照してください。


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