【日本酒】日本酒の製造工程について学ぼう

ナレッジ

1.はじめにー日本酒を紹介する場面ー

日本酒は日常生活で目にする機会はあるものの、その製造工程を知る機会はほとんどありません。その一方で、海外から訪れる旅行者にとって日本酒は日本の食文化を体験する上で外せない存在です。そのため、ガイドとしては日本酒に関する理解を深めておく必要があります。
この記事では日本酒の製造工程を取り上げ、大きく3つに分けて紹介します。以下全ての工程にかける期間は約2か月です。

  • 精米~蒸米(むしまい):主原料である米を削る、洗う、蒸すといった準備段階
  • 製麴(せいぎく)~仕込み:アルコール成分を生み出し、日本酒の原型を造るまで工程
  • 搾り~貯蔵:不純物を取り除いて、加熱や熟成することで味を調整する段階

日本酒の製造工程は醤油と味噌と似ている部分があります。いずれも発酵食品であることに加えて、製造方法でも原材料を蒸したり、菌を繫殖させるなど基本的な工程は共通しています。旅行者を案内する際はそれらの共通項を伝えつつ、米と大豆といった原材料の違い、熟成期間の違いなどの相違点を比較しながら説明するとよいでしょう。
ちなみに、発酵とは微生物の働きによって、食材に対して人間にとって有益な変化を起こすことです。有害な変化が起きた場合は、腐敗と呼ばれます。

2.日本酒の製造工程①精米~蒸米

ここでは精米から蒸米にかけての工程を説明します。精米ではどの程度米を削るかによってお酒の種類や味わいが変わってくること、蒸米では蒸された米はその後に続く複数の工程で使用されることがポイントとなります。

精米

日本酒の主な原材料は、米と水です。酒造りは、日本酒の主原料である米を精米するところからスタートします。多くの場合、酒造りに使われる米は、私たちが普段食べている食用米ではなく「酒米(さかまい)」です。酒米は食用米と比べ、タンパク質の含有量が低く、粘り気がありません。さらに「心白(しんぱく)」と呼ばれる米の中心部が大きいことも特徴に挙げられます。
この精米の段階では「精米歩合」、米をどれだけ削ったのかが重要となります。食用米の精米歩合は90%(10%を削る)といわれていますが、日本酒造りに使われるお米の精米歩合は70%前後が一般的です。さらに大吟醸酒の場合、精米歩合は50%以下となりますので、米の半分以上を磨いていることになります。精米に要する時間は、機械の数や米の分量によって異なりますが、機械に通す回数が増えるため精米歩合に応じて、所要時間が伸びていきます。例えば、八海山の銘柄で有名な八海醸造では、1800kgの米に対して、60%精米歩合であれば28時間、50%であれば42時間、35%であれば72時間かけています。
なぜ米を磨くのかというと、米の表層部分は雑味の原因となるからです。米の表層部分にはたんぱく質や脂質、でんぷんなど重要な栄養素がありますが、これらが多すぎると、お酒の香りが消されてしまいます。そのため、酒造りにとって必要のない米の表層部を磨く工程が必要となっています。
精米歩合が低い酒は、コクがある芳醇(ほうじゅん)な味わいになります。対して、精米歩合が高い酒は、フルーティで華やかな香りがあり、すっきりと甘みを持つ傾向があります。

蒸米

精米した米を洗って糠(ぬか)を取り、さらに米を水に浸して、水分を吸収させます。そして、水分を含ませた米を、蒸米機や甑(こしき)と呼ばれる大きな器を使って蒸していきます。米を蒸すことで、米のデンプンの構造がバラバラになり、菌が育ちやすい化学反応に適した状態になります。また、蒸米には殺菌の効果もあります。蒸した米は麹造り用、酒母造り用、もろみ造り用など、様々工程で使用されます。蒸米の工程に要する時間は40〜60分程度です。
このような発酵前に原材料を蒸す工程は、醤油や味噌といった発酵食品とも共通した工程です。一方で海外のお酒の場合は、原料を蒸すことは基本的にありません。例えば、ビールでは大麦の種子を発芽させた麦芽を、ワインではぶどうを発酵前の工程で粉砕します。そのため、原料を蒸すというのは、日本の発酵食品の製造工程の中で発展した特徴的な技法といえるでしょう。

3.日本酒の製造工程②製麴~仕込み

ここでは製麹から仕込みにかけての工程を説明します。蒸米を終えてから、日本酒の原型とも言うべき醪(もろみ)を造るまでを紹介します。醪、麹、酵母など、日常生活では馴染みのない用語については都度解説を入れています。

製麴


蒸した米を、麹にする工程です。麹とは穀物に微生物を繫殖させたものを言います。日本酒の場合には、米の中にコウジカビという菌を繫殖させたもの(米麴)を使用します。出来た麹は、その後の工程で投入される米に含まれるデンプンを、ブドウ糖に化学変化させます。後述しますが、さらにブドウ糖が酵母と呼ばれる微生物によってアルコール成分へと変えられます。
製麴の作業は温度・湿度を一定に保った製麹室で行われます。酒蔵によって異なりますが、一般的には温度は30~40℃、湿度は50〜70%が麴造りに適していると言われています。温度や湿度の管理によって麹の出来が変わり、麹の質は日本酒の質に直接的に繋がるとても重要な工程です。製麴に要する期間は丸二日かかり、泊まり込みで作業する蔵もあるそうです。

仕込み


仕込みの工程では日本酒の原型である醪を造ります。タンクの中に多くの材料を投入し、アルコール発酵をさせます。仕込みの過程では「酵母」と「乳酸菌」が登場します。
酵母とは麴によってできたブドウ糖を分解して、アルコールを生み出す微生物です。日本酒造りにおいて非常に重要な存在で、仕込みの初期の段階で大量に増やされます。酵母を増やす際には乳酸菌が活躍します。乳酸菌はタンク内を酸性に保ち、雑菌が入ることを防ぐことで、酵母を増加しやすい環境を整える微生物です。伝統的には空気中に存在する乳酸菌を活用する生酛(きもと)造りという製法が行われていましたが、現在では化学的に乳酸菌を投入する速醸酛(そくじょうもと)が一般的となっています。
酵母が十分に増えると、さらに蒸米、麹、水を加えます。タンクの中では、麴が米のデンプンをブドウ糖に変える、酵母がブドウ糖を分解してアルコールを生み出すという二つの化学反応が同時に進みます。
蒸米、麹、水を投入する際は、一気に全量を入れるのではなく3回に分けて、ゆっくりと発酵させます。その理由は、一度に原料を酒母に加えると、酵母の割合やアルコール濃度が低下し、雑菌が増えやすい環境となるためです。このような工程で、30日〜40日ほどかけて醪が出来上がります。
次の工程に進む前に、サトウキビを原料として発酵させた醸造アルコールを添加します。これによって、お酒は口当たりが軽く、辛口に仕上がります。なお、醸造アルコールを加えた日本酒は醸造酒と呼ばれ、逆にアルコールを添加しないお酒は純米酒に分類されます。

4.日本酒の製造工程③搾り~貯蔵

ここでは醪を搾って生のお酒がつくられる工程から、瓶詰めするまでの流れを紹介します。特に火入れや熟成期間などは日本酒の味の決め手となります。なお、貯蔵した後の熟成期間は、長期間となるためこの記事で扱っている製造工程には含んでいません。

搾り

発酵期間が終わると、醪を搾り、液体の日本酒と、固形物である酒粕に分ける作業が行われます。伝統的な製法では醪を酒袋に詰めて木製の槽(ふね)に乗せて搾っていたので上槽(じょうそう)と呼ばれています。
搾り始めでは香りがみずみずしくなったり、搾りの最終段階だと濃厚で力強い味になるなど、搾りのタイミングによっても味が異なります。また、搾りに使用する袋の網目を粗くすると、酒粕が混ざっているので独特の舌ざわりや、濃厚でコクのある味が特徴である「にごり酒」になります。
上記のように搾る段階や搾り方で酒の味わいが変わるので、酒蔵によって作業方法は異なりますが、この工程では一般的には半日~数日の期間を要します。

貯蔵

日本酒は搾りの工程を終えた後、味を調整した上で貯蔵されます。調整工程の一つに、細かな米や酵母等の小さな固形物を除去する「濾過(ろか)」があります。濾過することで品質を安定させるという目的がある一方で、酒蔵によってはこの工程を省いた「無濾過」の商品を販売しています。無濾過の酒の味は出来たてに近く、複雑で深みがあると言われています。
もう一つの調整工程として、発酵停止と腐敗防止の殺菌を目的とした「火入れ」があります。一般的には、貯蔵前と貯蔵後に1回ずつ、合計2回の火入れが行われます。加熱する温度は60〜65℃で、30分程度の時間を要します。火入れをすることで酸味が取れて味が安定します。一方で火入れを省略したお酒は生酒と呼ばれ、酸味を感じられるフレッシュな味わいが特徴です。
火入れを行った日本酒は、貯蔵タンクで熟成され、出荷を待ちます。貯蔵期間は短いもので約半年、長いもので3年近くになります。貯蔵されることで、渋みや荒々しさがなくなり、まろやかな味わいとなります。貯蔵後には他のタンクとブレンドする、水を加えるなどして、瓶詰めをした後、出荷されます。

5. おわりに-蔵・工場見学のポイント-


ここまで日本酒の製造工程について紹介しました。
酒蔵や工場などの見学施設で、日本酒について説明する場合には、上記の全体的な製造工程について紹介しつつ、精米、濾過、火入れなど、日本酒の味を大きく左右するポイントについて、理由を含めて丁寧に伝えましょう。
近年、食品の製造業者に対して、厚生労働省が規定した衛生基準であるHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)に沿った管理が義務付けられています。蔵や工場では様々な安全・衛生面の取り組みがされており、工場によってはSQF(Safe Quality Food)といった国際認証を受けています。各施設の衛生に関するルールを守ることはもちろん、見学の際は清潔を心がけましょう。

ガイドナビでは日本酒と同じく発酵食品である味噌の製造工程や、日本一の酒処として有名な神戸・灘地域に関する記事も記載しています。


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