「なぜ桜は、今の季節しか咲かないの!咲いたら短命でパラッと散るのが侍のように潔くて魅力を増すのかもしれないけど、もっと長期間楽しめたら良いのに…」
こんな溜息も出るくらい、桜が話題になる3月半ばから4月後半迄は、一年中で外国人観光客が最も集中来日し、インバウンド関係者にとっては嬉しい悲鳴の季節。2023年春は、コロナ後3年ぶりの復活で例年に増しての混雑ぶりです。十分な準備をして現場に望みたいですね。
ガイドサービスの質を上げるビジュアル・サブツール、小道具の再点検も大事です。地図、写真、イラストを描いたスケッチブック等々。使い慣れたツールも、使用者は案外気づかないのですが、初めてそれを見るお客様の目には、角が丸まってボロボロになっていたり、セピア色に変色してしまっていたり…などの消耗度が清潔感の欠如に繋がり、残念な気分になってしまうことがあります。補強、リニューアル、充実化など、時に触れて見なおしをしてみましょう。
モバイル機器で画像を見せれば、いつも新しくより良いコンテンツを紹介できるメリットが大きいです。しかし、多人数や大型バス車内で使用する場合などには、やはり大き目サイズのツールを持ち歩かねばなりません。
個人客の際には不要かもしれませんが、客数が多くなるとガイドの居場所を示し、先導がしやすいように旗を持つことがあります。バス会社のガイドさんが掲げて歩くような旗です。これは旅行会社やツアーのオーガナイザーから、企業のロゴが入った旗などを「使って下さい」と提供されたり、ガイド自身が自分で用意する場合もあります。
「旗を持ち歩くなんて恥ずかしい」という人もいますが、逆にプロフェッショナルな印象を与えるので、旗を使ってガイドするのが憧れだったという人もいます。背の高いガイドさんなら混雑の中でも、お客様は自分のガイドさんを見つけやすいでしょう。でも、私は中肉中背の平均的な日本人で、浅草の仲見世通りなどでグループ客を引率する時は、いろいろ工夫が必要でした。例えば真っ赤な上着を着るなど、目立つようにするのが親切だと考えたのです。日本人の顔はみな同じように見えて、ガイドさんを見分けるのに戸惑う時があるという話を、欧米のお客様から聞いたことがあったからです。
そんな時は目印が欲しいが、ダサい旗は避けたいなあ…と、また知恵を絞るわけです。旗に自分の名前やイラストを描いたり。知人に、素晴らしい旗を作成したガイドさんがいました。なんとガイドさんの似顔絵が大きく描かれており、思わず笑顔がこぼれて楽しい雰囲気が漂うのです。そうなるとお客様はガイドさんの名前も顔も忘れません。これはお薦め!と思いました。
某女性ガイドさんが掲げていた“鯉のぼりのミニチュア竿”は、様々な話題に繋げることもできるので興味深く面白そうでした。が、風が吹かないと鯉がダラリとショボく下にぶら下がってしまうので、ちょっとなあ…と思った時に思いついたのが、100円ショップでも売られている造花の活用でした。今の季節なら桜の小枝。季節によって青い菖蒲の花だったり、七夕の短冊付きのミニチュア笹や、秋には紅葉した紅葉の枝だったり。これは楽しげでユニークで、お客様からも好評でした。少なくともお客様を楽しませようとしているガイドさんの心意気が表せて、皆の心が和みます。
さて私は、通訳ガイドの適切な服装を見直そうと、東京の人気観光地である明治神宮でガイドさんの服装を何十人分も写真に撮り集めて、研究したことがあります。
まず、日本人ガイドと海外から同行してきた外国人ツアーリーダー達に、大きな違いがありました。外国人の場合は、男性もショッキングピンクのポロシャツとか、目立ちやすく明るい、楽しい雰囲気を演出しやすい色目を着用している人が多いように感じられました。一方で日本人男性の服装はといえば、ほとんどのガイドさんが白、グレー、紺、黒といったベーシックな基本色が多く、夏季だったので襟付きシャツやポロシャツ姿のサラリーマンか学校の教師が現場に出たようなイメージ。真面目な感じで好感は持てるのですが、比較すると、原色のウインドブレーカーやベスト着用者などは“ガイドです”という無言のアピールがあって、ある意味プロ精神に徹しているなあと感じられました。
女性ガイドはまた違います。派手めから地味タイプまで多様。気になったのは、サブ・ツールを含めた私物の持ち歩き方でした。女性は男性よりも携帯する物品数が多くなりがちですが、ハンドバッグやショルダーバッグ以外に使用する袋物が、どことなくくたびれた場合が多いのです。布製のトートバッグ風な入れ物は目立たない地面色系が多く、使い込んだヨレヨレ感が見えるとなぜかそれだけで、きちんとした服装であっても全体が貧相に疲れて見えてしまうのです。軽くて出し入れがし易い、シンプルでお洒落なアイテムがあると良いですね。求めて数年、まだ出会っていない私です。
ランデル 洋子(全国通訳案内士/GICSS研究会 理事長)
![]() | 名古屋出身。フリーランスの英会話講師、海外旅行添乗員・海外駐在員、通訳ガイド、ビジネス通訳、アラスカツアーオペレーター事業運営などを経たのち、株式会社ランデルズにてグローバル人材育成や通訳ガイドの派遣・研修業務に携わる。元アメリカ大統領親族のアテンドなど重要業務を歴任しつつ、オランダIOU大学で異文化情報学博士号を取得し、GICSSを創設。愛知万博では日本(政府)館VIPエスコートのトレーニング講師を務めるなど全国での講演、研修、執筆活動に従事。また観光庁の通訳ガイド関連の委員会委員を歴任。日本の通訳ガイド育成の第一人者と定評がある。 著書:「電話の英会話」「英語を使ってボランティアしたい」「外国人客を迎える英会話」「通訳ガイドがゆく」など11冊。 |
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