【コラム】食事のタブー(転ばぬ先のガイド事件簿)

エピソード

このコーナーでは、皆さんの今後の活動の参考にしていただくよう、全国のインバウンドガイドの様々な体験、失敗談のエピソードを紹介致します。今回は京都や大阪ツアーで、団体客からFITまでたくさんのガイド経験がある大阪府在住の全国通訳案内士、田村聡子さんにお話を伺いました。

トラブル発生! あなたはネズミを食べますか?

「団体客やFITのいろいろなお客様を京都、大阪の名所にお連れしていますが、毎回最も気を遣うのがお食事です。お食事に満足して頂ければ、そのツアーは8割がた成功したと言って良いと私は思います」と、田村さんのお話は始まりました。逆に何か問題が起きると、お客様はもちろんガイドも、時にはレストランのスタッフも巻き込んで、気まずい時間が流れ、皆が悲しい気持ちになってしまうのだそうです。

大きな団体ツアーのお客様を姫路城観光にご案内した時の事です。この日、田村さん担当のグループには5人ほどユダヤ系のお客様がいらっしゃいましたが、旅行会社からはそれを踏まえて昼食を手配していると伝えられていました。ところが、お客様一行を手配のレストランにお連れしたところ、ユダヤ系のお客様が声を上げて拒否反応を示されました。サーブされたのは鰻料理、鰻やアンコウのようにウロコのない魚は、ユダヤ教で食して良いものを規定した「コーシャ」から外れるものだったのです。

グループの他のお客様が喜んで食事される中、田村さんは平身低頭でお詫びしました。代わりとなるメニューの選択肢もなく、結局この方たちはわずかの副菜とご飯だけの昼食をとられました。心尽くしの料理を拒否されたレストランの方の不機嫌な様子も見え、後味の悪いお昼休憩になってしまいました。

ガイドの落ち度ではないとご理解下さっている様子に安堵しつつ、「日本では鰻は大変人気のあるご馳走で…」と言い訳のように説明を始めると、「あなたね…」と、先ほど声を上げた男性が次のように語り始めました。
「周りの人がどんなにおいしそうに食べていたとしても、あなたはネズミ料理を目の前に出されたら、それを食べることが出来ますか?私たちにタブーの料理を出すことは、あなたが『ネズミを食べなさい』と言われたのに等しいことなのです」。

「ネズミと聞いたときには本当に背中がゾーっとしました。その感覚は今でも忘れません。もの凄い例えと思いましたが、食べられなさ加減がよくわかりました」と、その時の強い印象を振り返ります。

その時ガイドがとった対処法は?

「正直なところ、このような食事トラブルにはこれがベストという対処方法はありません。お客様の気持ちをレストランにお伝えする、そして限られた時間で何が出来るかを考えて頂く、ガイドはお客様とレストランとの間で板挟みになりながら出来るだけの努力をする」が、田村さんが達した境地です。

トラブルの原因はどこに?

実際は決められた行程の通りに進めていけば、お客様は満足され無事に1日が終わる、というのがほとんどです。田村さん曰く「しかしなから、食事のタブーは旅行会社が十分に気を付けて対応していても、この話のようなことが起きるのです。そういうものだと思っています」。

転ばぬ先の防止策は?

「事前に食事制限のお客様が在るか確かめて、前もってレストランに電話して食事内容の確認する、これはMUSTです。それでも何かトラブルが起きてしまったときには、誠心誠意の応対をする、これに尽きますね。」
「そしてその後はもう引きずらず、次の行程を笑顔で進める、その方が最後はお客様にも楽しんで頂ける、私はそのように思います」。いつまでもくよくよせず、サッと割り切って笑顔でお客様に接するのが望ましいと軽やかに語る田村さん、割り切る心もガイドの仕事には大切と感じたお話でした。
(執筆:舟橋 宏/GICSS研究会)

田村聡子(全国通訳案内士)

高校時代、交換留学生として1年間米国に留学。その延長線上で通訳ガイドに興味を持ち、大学時代に資格取得。結婚を期に家庭入り子育てに専念の後、中高一貫校の英語の非常勤講師に就き、通訳ガイドも再開。訪日客が増え多忙となった2010年代半ばガイド業に専念、FIT、団体のお客様を短期、長期で様々な地域にご案内。お客様とのコミュニケーションを大切にして、日本贔屓になってお帰り頂くことを心がけている。

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