このコーナーでは、毎回異なるテーマで開催するガイド座談会の様子をお伝えします。ガイド現場で嬉しかった経験、大変だったこと、思い出に残った出来事などを語ります。今回は「Youは何しにニッポンへ!?」と題して、3人の全国通訳案内士の皆さんのお話を伺いました。
出席者
・滝口亮(中国語 全国通訳案内士、東京都在住 2017年よりガイド業務)
・宇佐美信幸(英語 全国通訳案内士、千葉県在住 2017年よりガイド業務)
・三田宏和(英語 全国通訳案内士、東京都在住 2018年よりガイド業務)
司会:今日は同時期に通訳案内士となられた方々が揃いました。滝口さんと三田さんとは以前からのお知り合いだったそうですね
滝口:はい、そのご縁で今回の座談会にもお声がけ頂きました。
三田:私はガイドとしての活動を始めたのが、皆さんより一年遅く2018年からだったので、一足早く活動を始められていた滝口さんに色々と教えて頂いた経緯がありました。
司会:宇佐美さんは、千葉県一宮町で観光関連事業を展開して地域の魅力を発信したり、隣のいすみ市でDMO(Destination Management Organization=観光地域づくり法人)に携わる一方、地元でのインバウンドツアーの受け入れ、都内でのガイドなど、幅広くユニークな活動をされていますね。
宇佐美:一宮町の上総一ノ宮駅は東京から約1時間の距離ですが、町のシンボルとも言える玉前(たまさき)神社をはじめ、海も里山も田んぼもあって、日本の田舎の雰囲気を味わうことができます。
司会:サイクリングなどの体験型ツアーの企画もされているそうですね。
宇佐美:海岸コース、里山コースなど複数のルートを用意しています。海が近いのですが、里山コースを選ぶ方が意外に多いです。
三田:それはなぜですか?
宇佐美:特に欧米からのお客様は米作りに馴染みのない方が多いので、里山コースで田んぼの中を自転車で走り、田植えや稲刈りに遭遇するのはとても新鮮な体験のようです。私たちにとっては当たり前の光景が、お客様には日本を象徴するような風景に見えるのでしょうね。
滝口:やはり中華系のお客様とは興味や関心の対象が違いますね。中国系の方たちは「爆買い」で名を馳せてしまいましたが、来日する目的の大きな部分は買い物、という方たちが実際に多いです
司会:そうなんですね。
滝口:日本の歴史の話をすることもありますが、お客様の年齢によって食い付きが違います。確か7-8年前に山岡荘八の『徳川家康』が中国でブームになったことがあって、その影響なのか、徳川家康に絡めた歴史の話をすると興味を示す方がご年配の方には多いです。ただし全般的には日本の歴史には興味を示さない方が多いですね。
三田:行きつくところは買い物、ですね。
滝口:ご存じの通り、都内では銀座や秋葉原、具体的な店名を挙げればマツモトキヨシなどで化粧品や、日本でしか入手できない薬を大量に買い求めることが多く、まずは空のトランクを買い、購入した商品でパンパンにして帰国します。
宇佐美:私は都内の観光ガイドもしますが、以前アメリカのお客様をガイドした際に「日本刀を買いたい」と言われて困りました。
司会:本物の日本刀を!?
宇佐美:そうなんです。
三田:浅草にある専門店の広告を地下鉄の駅で見かけたことがあります。ちゃんとした店で買ったものしか国外に持ち出せないのですよね。
宇佐美:そういう知識もなかったもので、困りましたが、幸いその翌日が鎌倉に行く予定で、輸出許可のある日本刀を販売している店があることがわかり、その店でお客様は日本刀を何振りか購入されました。
司会:お客様の興味の対象は、本当に様々ですね。
滝口:中華系の若者だと、日本のサブカルチャーに興味を持つ人たちが多く、秋葉原にフィギュアを買いに行くのに同行したことがあります。かなりのまとめ買いでしたね。
三田:サブカルチャーの範疇かわかりませんが、先日ご案内したアメリカ人の女性からは、「アザラシのユキちゃん」のぬいぐるみを買いたいと言われて面食らいました。
一同:(何のことであるかわからない表情)
三田:調べてみたら、大阪市の水族館「海遊館」にいるワモンアザラシのことで、正面からの見た目がまんまる、かわいいので海外で大人気らしいです。結局東京では見つからず、「大阪で買う」とおっしゃっていました。欧米でもカワイイ系が好きな女性が増えている感じはしますね。
滝口:欧米人とアジア系、日本人も含めた混載ツアーのガイドもやったことがあるんですが、それぞれ求めることが違うので、説明のポイントに苦労します。欧米の方たちには日本についての学びにつながる説明をし、アジア系の方たちにはインスタ映えする自撮りスポットにお連れするようにしています。
宇佐美:例えば浅草をご案内するとき、雷門から仲見世を浅草寺に向かって歩きながら、「興味があるのは歴史か買い物か」を見極めるようにしています。
三田:ああ、それは大切なポイントですね。それによって時間配分も変わりますし。以前アメリカ人の団体をご案内した時、浅草に向かうバスの中で「ここで買い物をしたい」とご希望のお客様が何人かいらっしゃったので、滞在時間を延長したら、買い物には興味のない別のお客様から「何であんなに時間取ったんだ」と後で怒られたことがあります。
司会:宇佐美さんが地元でやられている体験型のツアーに参加されるのは、やはり欧米の方たちが主体ですか?
宇佐美:そうですね。欧米や豪州の方たちが多いですが、シンガポールの方たちも来られます。シンガポールは都市国家で自然が周りにないので、自然の中でリラックスしたいとのご要望が強いようです。
滝口:中国人の方たちに北海道が人気ですが、これは北海道を舞台にした中国のドラマの影響が大きく、一種の体験型と言えるかも知れません。リピーターの多い台湾の方たちは温泉など異文化体験を重視する傾向が既に強くなっており、中華圏全体でも恐らくあと5年くらいの内には、これまでの買い物や観光地巡りだけでない、体験型の旅行が増えるだろうと言われています。
三田:私がガイドしたツアーで面白かったのは、ある剣舞のグループが主催したツアーです。イタリアやチェコから来日した剣舞のお弟子さんたちが日本人の子供たちと一緒に、日光から会津を回り、師匠の指導の下、各地で剣舞のパフォーマンスをしました。感銘を受けたのは海外から来たお弟子さんたちの礼儀正しさで、彼らは武士道に憧れているだけあって、神社仏閣ではきちんとお参りするし、日本人の私たちが恥ずかしくなるくらいでした。
司会:そのような日本に来なければ得られない体験や精神的な価値を求めて訪日される方が今後は増えそうですね。本日は皆さん、ありがとうございました。
編集後記:今回は英語だけでなく、中国語ガイドの方にも参加頂き、英語圏のお客様ではなかなか遭遇しない体験についても伺うことができました。お客様から思いもよらぬご要望を頂いて驚くことは珍しくありませんが、これを解決していく喜びもまたガイドという仕事の醍醐味かも知れない、と思いました。(司会・執筆:三浦陽一/GICSS研究会)