はじめにーほかの地域でも応用可能な漁業・漁港の知識ー
この記事では漁港や漁業にまつわる案内で役立つ情報を紹介します。千葉県いすみ市にある漁港を事例として取り上げつつ、刺網漁をはじめとした漁業に関する基礎知識や日本各地で取られている海産物について紹介しているので、ほかの地域の港におけるガイドでも応用できる内容です。
千葉県いすみ市は関東地方の南東部、房総半島東側にあります。温暖な気候と美しい里山・里海があることが特徴で、農業や漁業などの第1次産業が盛んな街です。地域の魅力はテレビや新聞などメディアでも度々取り上げられているほか、インバウンド観光においては漁業体験や漁師の家での民泊の取り組みが進んでいます。
以下ではいすみ市の中でも天然の良港として知られている大原漁港に焦点を当てます。日本一の漁獲高を誇るイセエビをはじめ豊かな水産資源が特徴であるほか、漁港の近くでは定期的に朝市が開催されるなど、地域の漁師文化が楽しめる観光エリアです。この後に続く2つのテーマでは、大原地域の漁業の魅力を深掘りした内容を記載します。
- <テーマ1>いすみ沖の漁場と特徴的な漁法
- <テーマ2>大原漁港の海産物と朝市の魅力
大原漁港の位置

地図データ ©2023 Google
各テーマに入る前に大原漁港の漁港の場所について知っておきましょう。大原漁港は千葉県南東部のいすみ市にあり、太平洋に面している漁港です。いすみ市の市域は2005年に夷隅町、岬町、大原町と合併した際に今の形になりました。大原漁港はその名前の通り、かつての大原町のエリアにあります。
東京駅や成田空港からは外房線特急の利用で1時間ほどでアクセスができ、圏央道や九十九里有料道路など道路の整備も進んでいることから、自動車でのアクセスも容易です。
<テーマ1>いすみ沖の漁場と特徴的な漁法
ここではいすみ沖が優れた漁場である背景と地域で行われる代表的な漁法の特徴について紹介します。
いすみ沖の恵まれた漁場
いすみ沖は全国でも屈指の好漁場として知られています。主な理由は2つあり、ひとつにはいすみ沖が「潮目」の場所にあたるという点です。潮目とは低緯度から流れる暖かい海流である暖流と、高緯度から流れる冷たい海流である寒流がぶつかる地点をいいます。寒流と暖流のそれぞれに生息する魚が集まるために豊かな漁場となります。国内の潮目としてはいすみ沖以外に、東北の三陸沖、北海道の釧路沖などが有名です。
いすみ沖が好漁場として知られるもうひとつの理由は、沖に広がっている「器械根(きかいね)」の存在です。根とは海底の岩礁を指す用語で、いすみ沖には水深20m前後の岩礁群が10キロ以上にわたって広がっています。およそ東京ドーム約2800個分で、いすみ市の市域と同じくらいだと言われています。器械根という特徴的な名前は、明治時代に始められた空気ポンプを使用した器械潜水での漁が行われた際に、岩礁が発見されたことから名付けられています。潮目に位置することに加え、器械根が存在することが、いすみ沖が全国でも屈指の漁場となり、豊富な海の幸を育む要因となっています。
器械根で行われる漁
器械根で行われる代表的な漁法として「刺網漁」があります。刺網とは漁を行うと網に魚が刺さったようになることに由来します。漁の特徴としては、魚の通り道を遮断するように網を張ることと、体長が異なる魚でも網目に絡ませて捕獲できることです。日本一の水揚げを誇るイセエビ、ヒラメ、イワシなどもこの漁で水揚げされます。
いすみ沖では通常1日1回、この漁が行われます。夕方から夜にかけて網を海底に投げ入れ、翌朝に網を上げて網に刺さった魚を外して漁獲するという流れです。網から獲物を外す作業や、切れた網を直するのに人手が必要な漁法のため、多い時には15人程度の漁師が必要となります。漁師たちが船上で和気あいあいと作業を行う様子は地域ならではの風景の一つです。
<テーマ2> 大原漁港の海産物と朝市の魅力
このテーマでは大原漁港で水揚げされる主な海産物を紹介することに加え、実際に海の幸を堪能できるイベントである「港の朝市」について解説します。
大原漁港で水揚げされる海産物
大原漁港では様々な海産物が水揚げされていますが、特に品質が高いことで知られている4つを紹介します。いずれも千葉県のブランド水産物としても認定されています。
イセエビ
イセエビは漢字では伊勢海老と書くことから、三重県が代表的な産地と知られていますが、いすみは日本トップクラスの漁獲量を誇ります。特に器械根で水揚げされたイセエビは色鮮やかで大振りのものが多く、味も濃厚なことから、市場で高く評価されています。資源保護のため漁獲可能なのは13センチ以上と定められています。旬は8月~10月にかけてで、毎年秋には「イセエビまつり」が開催されるほど、地域の特産品として定着しています。
マダコ
いすみでは江戸時代から400年以上続く伝統的なたこつぼ漁が行われます。タコの岩場に隠れる習性を活かして、海に沈ませた壺にタコを入らせた上で、一匹ずつ捕獲します。現在主流の網漁では体に傷が付きやすい一方で、たこつぼ漁では傷が少なく活きの良い状態で水揚げができます。兵庫県明石市と並んで日本の二大タコと呼ばれるほど味が良いことで知られ、特に12月~1月に漁獲されたマダコは、柔らかく甘みがあるそうです。
マダイ
いすみ沖はマダイ釣りでも有名です。一本の長い縄から枝分かれした縄で一尾ずつ釣り上げる延縄(はえなわ)漁がいすみでは主流です。効率は網を使った漁よりも劣るものの、たこつぼ漁と同様に、体に傷がつきにくいことから、市場では高く評価されています。いすみでのマダイは10月〜3月にかけて旬を迎えます。
サザエ
器械根に広がっている岩礁は、サザエの餌となる海藻が豊富にあります。 そこで育ったサザエは、ほかの地域で獲れる物と比べてもサイズが格段に大きく、身も柔らかいという特徴があります。ブランド水産物としては400g以上が規格として求められているほか、殻高7㎝以下のものは再放流するなど、資源管理も徹底しています。
港の朝市
上記の海産物を味わう方法として、いすみ観光の目玉の一つである「港の朝市」があります。港の朝市は大原漁港で毎週日曜日の午前に開催されるイベントです。「都会に暮らす旅行者が、わざわざ大原に足を運んで求めるものを提供する」というコンセプトのもと、いすみ産の海産物や農産物などを扱う店舗が約20店ほど集まります。多い時には約2000人が開催日に訪れるほど人気があります。
朝市限定で販売されるメニューもあることから、店舗によってはイベント直後から行列ができることもあるので、訪問するお店を予め選定しておきましょう。港の朝市の公式ウェブサイトでは、イベント当日に出店予定の店舗を確認できます。開催日によっては出店していない店舗もあるので事前に調べておきましょう。以下では代表的な店舗を紹介します。
- まるへい:地元産で獲れるイセエビやマダイなどをお手頃価格で購入できる
- 鮮魚正志丸:大原漁港に水揚げされた魚介類をその場でさばいて提供している
- 岩瀬商店(やまじゅう):たこめしや伊勢海老の味噌汁などの料理が味わえる
- 地魚レストラン晴海:いすみの名産でもある地ダコを使ったたこ焼きが人気
- アルファ:干物、いかの塩辛、イセエビを使ったお菓子など加工食品を販売
港の朝市の開催日でなくても「漁協直営食堂いさばや」や「船頭の台所」など港周辺で地元の海産物を味わえるお店もあるので、旅行者の予定に応じて訪問するとよいでしょう。
ガイドナビではいすみのほかにも、日本各地の魅力を紹介した記事を掲載しているので、ぜひチェックしてみてください。