【コラム】ガイドも驚くカルチャーショック!(ガイドの語る場・喜怒哀楽)

エピソード

このコーナーでは、毎回異なるテーマで開催するガイド座談会の様子をお伝えします。ガイド現場で嬉しかった経験、大変だったこと、思い出に残った出来事などを語ります。今回は「ガイドも驚くカルチャーショック!」と題して、3人の全国通訳案内士の皆さんのお話を伺いました。

出席者

・新井達司(英語 全国通訳案内士、山梨通訳ボランティアネット会長)
・瀬田恵子(英語 全国通訳案内士、神奈川県在住 2003年よりガイド業務)
・江原幸正(英語 全国通訳案内士、埼玉県在住 2016年よりガイド業務)

司会:通訳ガイドは様々な文化的背景を持つ外国人のお客様に接する機会が一般の方々に比べれば多く、異文化への対応力は長けていると思われますが、皆さんのような経験豊富な方でも驚いたり、困ったりすることがあるそうですね。

新井:ありますねぇ。私の場合は前職が山梨県庁で県の観光プロモーションを行っていましたが、ご存じの通り山梨県はワイン県ですから、海外のお客様にレクチャーしたりワイナリーにお連れして山梨ワインをアピールしたり、とやっておりました。

司会:お話を伺っているだけで楽しそうですね。

新井:ですから、インドネシアから来られたメディアの方を、いつもの通りワイナリーにご案内してしまいました。ワイナリーでは試飲出来るのですが、どなたもグラスに手を出されません。

司会:それは、もしかすると…

新井:はい、そうなんです。インドネシアの方はイスラム教徒の方がほとんど、「イスラム教は飲酒禁止」と、お連れしてから気付いた次第で……

司会:でも大きな問題にはならなかったのですよね。それは幸いでしたね。

新井:今思い出しても冷や汗が出ます(笑)

江原:これも宗教的観点かどうかはわからないのですが、美しい風景をご覧頂く予定の行程が雨になってしまい、屋内施設に変更した時のことです。
代替案として準備してある、水族館へとお客様をご案内しました。アザラシなどもいて子供さんたちは喜んで下さいましたが…

司会:何か問題でも?

江原:あるヨーロッパからのお客様が「海から遠い場所で、狭い水槽に生き物たちを押し込めて飼うなんて、動物虐待ではないか!」とおっしゃったんです。

新井:なるほど…

江原:その水族館は決してひどい飼育をしている訳ではありません。しかし、そうした見方もあるのかと、驚くと同時に勉強になりました。猿回しの大道芸は、興味深くご覧になるお客様が多いのですが、中にはやはり動物虐待だとおっしゃる方もいらっしゃいます。「猿回しは日本の伝統芸の一つで、猿も仲間として扱い、決して虐待はしていない」とご説明するのですけれど、文化の違いを理解する・理解して頂くのはなかなか難しいことですね。

司会:最近は水族館のイルカショーなどにも同じような指摘があるので、今後気を付けなければならないことが増えそうですね。
瀬田さんは20年近い経験をお持ちで、FITや富裕層の方々をご案内することが多いと伺いましたが、いかがでしょうか?

瀬田:これも一種のカルチャーショックだと思いますが、富裕層の小グループをご案内中のことです。アメリカ人グループのツアーで、中に足の不自由なシニアのご婦人がお一人いらっしゃいました。杖をつくことも無く、見た目からはわからなかったのですが、バスでは常に最前列の席で「足が悪いのでここに座らせて頂くわね」と、周りのお客様にも話されていました。

司会:常に視界にその方を入れておかないといけない感じですね。

瀬田:私もご案内の際には、なるべくその方のご負担にならないようにしようと意識していました。

江原:ベテランガイドさんならではの気遣いですね。

瀬田:ツアー開始から数日が過ぎ、お客様との距離感もだいぶ近づいたように思われた頃、香川県の直島に行きました。私は真っ先にバスから降りて、お客様が降車されるのを待っていました。そのご婦人がバスから降りるのをお手伝いしようと、手を伸ばして彼女の腕に触れた瞬間、私の手を振り払って「触らないで!」と強い口調でおっしゃったのです。

司会:それはショックに思われたでしょう。

瀬田:すぐに「失礼しました、ごめんなさい」と謝りましたが、なんともいたたまれない気持ちになってしまいました。その様子を見ていた別のお客様からは、「彼女の言い方はきついから、あまり気にしないほうが良い」と慰められました。

司会:他のお客様から見ても、ちょっと驚くような言い方だったんでしょうね。そんなことがあると、気まずいですよね。

瀬田:結局そのご婦人とはフレンドリーな関係を作れないまま、ツアーが終わってしまいました。

一同:それは残念でしたね。

瀬田:私も外国人の方に対しては、むやみに体に触れるのは良くないとは頭でわかっていたのですが、つい手を差し伸べてしまったんですね。日本人同士ならお年寄りに手を差し出すのはごく当たり前、とその感覚でした。

司会:外国人と言っても様々で、ラテン系の方たちは逆に日本人と比べるとかなりスキンシップが濃いですから、そのあたりの見極めは瀬田さんのようにベテランガイドさんでも難しいのですね。

瀬田:そのお客様の生まれ育った文化や慣習がわからないので何とも言えないのですが、もしかするといきなり他人に腕に触られるようなことは想像していなかったので、驚いてしまったのかも知れません。あるいは、人に手助けしてもらうことを良しとしないプライドがあったのかも知れませんね。

司会:人それぞれですから難しいですね。

瀬田:今になって思えば、予めお客様のご意向を伺っておけば良かったかなと思います。まず一言「お手伝いしましょうか?」「腕を取らせて頂いてもよろしいですか?」とお尋ねしていれば、「お願いするわ」となっていたかもしれません。

司会:一声掛ける、は大切ですね。

瀬田:でもね、そのあとで、同行していた若いアメリカ人男性添乗員にはこのご婦人が笑顔で腕を預けていたの。『あら、こちらはOKなの?』って思ってしまいました(笑)。

司会:ガイドの仕事ではこれが正解、を見つけるのが難しい例のようなお話でしたね。皆さんのガイドならではの貴重な体験、ありがとうございました。

編集後記:物事の考え方やスキンシップの取り方は、国や文化的背景の違いがよく表れる部分だと思います。また宗教が異なれば習慣や文化も大変異なったものとなります。私たち日本人は宗教的制約を受けることがほとんどないので、ついこうした点が疎かになりがちですが、日本の文化的背景から出た無意識の行動に外国人の方たちが違和感を覚えることがあると、改めて意識することが必要だと感じました。(司会・執筆:三浦陽一/GICSS研究会)
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