【コラム】心に寄り添う(ガイドの、ガイド)

エピソード

「おもてなしの心をもってガイドサービスを提供しましょう」と言われます。「心に寄り添って接遇せよ」と指導されます。でもそれって言うは易く、行うは難しの一例かもしれないと思うのです。新年にあたって、その基本を考えてみませんか。

相手の心に寄り添わないと、おもてなしなんてできないので、まずは“心に寄り添う”ということについての一考です。私たちは日頃から大切な人の心にちゃんと寄り添えているのでしょうか?

ある夫婦の会話を例に挙げて見直してみましょう。奥さんは子供の通う小学校のPTAの経理を担当しているのですが、事務連絡をしてもちっとも返事をしてくれない役員の親御さん達がいる、「領収書は失くした」と金額不明のまま放置されて経理作業が2ヶ月も滞る、集金のたびに不機嫌な顔をされる…などの日頃のストレスが溜まり、ある日、頭を抱えながら夫に不満をぶちまけました。

日頃から忙しくて家庭のことはあまり顧みる余裕がない夫も、こういう時は話をきいてあげなくてはいけないと思い、妻の話に耳を傾けます。

「それなら一斉メールでお願いを出すとか、個別メールや電話でもいいから相手に催促をして注意をすれば?それでダメならPTA会長に相談して直々に注意を促してもらうとかすればいいじゃないか」明快に対応して、夫は颯爽と仕事に出かけてゆきました。でも妻の表情は暗いまま、気分が楽にはなりません。

「そうね、そうなんだけどサ…」

と、救われるどころかなぜか逆に、イライラが募ってしまいました。

夫の方は、しっかりと妻の話を聞いて的確な解決策の提案をしたので、自分はちゃんとやるべきことをやって妻の役に立てたのだと考えています。なのに、なぜ妻が嬉しがらないのかがわかりません。

妻がいちばん求めていたのは、解決の策もさることながら、自分の気持ちを受け止めてもらうこと、共感を覚えてもらうことでした。

「そうか、君も大変な思いをしてるんだね。それは困るよなあ。ご苦労さん!」

こんな一言で気持ちを共有して、ねぎらって欲しかったのかもしれません。

「僕は日頃、手伝ってあげられなくてごめんね。メール出すの、できる?困ったら言って」

などと言われたら、妻はもうひと踏ん張りできたのではないでしょうか。

相手が事実関係を重視するコミュニケーション(A)なのか、感情共有を重視するタイプ(B)なのかの違いを見抜いて対応することができたらいいですね。でも良く知らない観光客が相手だったりする場合には、その両方をカバーするパターンを習慣化すると良いかもしれません。ツアーのお客様から何か言われたら、まずは相手の本音の気持ちに共感する言葉を言うのです。

客:「今日はツアー中、素敵なお土産品を見つけたのに、それを買う時間がまったくなかったのよ」

悲しみと怒りの気持ちを交えて訴えてくる相手には、こちらも驚いた表情をみせながら悔しい!という気持ちをこめて、

「あ~そうだったのですか。それは、残念でしたねえ、せっかく日本に来て良い品を見つけられたのに…」(B)と、うなずきながら言い、その上で、「ホテルの売店でも良い土産品があるからご覧になってみては?次回はその場で、ガイドに相談してみてください」(A)

などと伝えれば、ついつい問題を解決しようと(A)に走って、(B)の気持ちが置いてきぼりにされるリスクが回避できます。(B)➡(A)➡(C)、
(C)はポジティブな応援のメッセージです。

「素敵なお土産品をゲットしてくださいね。きっと見つかりますよ」「明日は、ちゃんと買い物時間もとれるので楽しみにしていてください!」

こんな締めの言葉も印象に残るので、忘れないようにします。

私はツアー中にほぼ(B)と(C)だけの対応を求められたことがありました。ホテルのロビーに設置されたグループツアーのツアーデスクにいた時の事です。初老のアメリカ人女性客が目の前に座り込み、その日のツアーの感想を語り始めました。話は彼女の娘の話になり、写真をみせながら娘の夫(義理の息子)に対する彼女の不満や心配事を呟き、自分はもう歳で足が悪いから今のうちにあちこち訪問しておかなければ…など話は続きました。その間、私はただ相手の目を見つめながら、うんうん、そうなのですか…という対応しかできませんでした。

が、その一部始終を見ていた中年の男性客が次に私の前に座り、開口一番、

“You are quite a psychiatrist!”

と言ってくれたのが忘れられない瞬間でした。彼女の話し方はまるで精神科医に対してと同じ。君の忍耐力は素晴らしかったよと、褒めてくれたのです。私はただ、ああ、この人は信頼できる話し相手を求めているんだなと思い、自分の叔母と会話する気分で返事をしていたのでした。ツアー最終日、その初老の女性客からはチップを頂いて恐縮しつつも、私と一緒に和む時間が過ごしてもらえたのかなと思い、ちょっぴり嬉しくなったことでした。

心に寄り添うのは簡単じゃないけど、ちょっと意識をもって心がけていたら、いつか自然に身につけられるかもしれないと感じたことです。

ランデル 洋子(全国通訳案内士/GICSS研究会 理事長)

名古屋出身。フリーランスの英会話講師、海外旅行添乗員・海外駐在員、通訳ガイド、ビジネス通訳、アラスカツアーオペレーター事業運営などを経たのち、株式会社ランデルズにてグローバル人材育成や通訳ガイドの派遣・研修業務に携わる。元アメリカ大統領親族のアテンドなど重要業務を歴任しつつ、オランダIOU大学で異文化情報学博士号を取得し、GICSSを創設。愛知万博では日本(政府)館VIPエスコートのトレーニング講師を務めるなど全国での講演、研修、執筆活動に従事。また観光庁の通訳ガイド関連の委員会委員を歴任。日本の通訳ガイド育成の第一人者と定評がある。

著書:「電話の英会話」「英語を使ってボランティアしたい」「外国人客を迎える英会話」「通訳ガイドがゆく」など11冊。

 

関連記事

特集記事

TOP