【コラム】ガイド自身の棚卸し(ガイドの、ガイド)

エピソード

「ああ、またロンドン・パリかあ…と思ったらダメなんですよ」
以前、海外旅行添乗員の仕事をしていた時に先輩から聞いた言葉です。ヨーロッパ旅行で定番の人気都市ロンドンとパリは、ヨーロッパ地域担当の添乗員なら数えきれないくらい訪問経験があって、つい「またかあ~」という反応が出てしまうのも想像できます。

そういう気分は、無意識のうちに滲み出てしまい、お客様はそれを敏感に察知して、特別感の感じられない無機質な距離感を覚えることがあるでしょう。お客様にとっては一生に一度かもしれない憧れのロンドンやパリ。そこに足を踏み入れる“感動を共有”してくれる添乗員や地元のガイドさんについてゆきたいと望むお客様にとって、そんな距離感は残念で気の毒です。それは、訪日外国人観光客を案内する通訳ガイドにも同じことが言えると思いました。インバウンド復活直後は大丈夫としても、しばらく経つと、
「あ、また箱根かあ…」
なんて感じたら要注意信号ですね。

業務遂行には慣れが大事、習熟すれば余裕が出て、さらにきめ細かいプラスアルファのサービスも展開できます。次から次へとサラサラ流れるようなガイディングは聞いていて心地よいし安心感もあります。ルーティン化すれば話すのも楽です。しかし、そこに本人が気づかない“慣れ”の落とし穴があり、言葉や目配り気配りに心がこもらず、機械的でおざなりなガイディングになってしまっていたら、リフレッシュ立て直しの措置が必要です。

時にはサービス精神を忘れ、サービスを提供される側に立ったり、完全休養でリフレッシュする時間を持つとまた、復活。休んでチャージするのも健康管理と一緒で仕事のうちですね!最近、観光庁事業の講演イベントで大学生や専門学校の学生さん達に接したときに、珍しく新鮮な気持ちが蘇り、自分を見直す機会を得ました。

通訳ガイドという仕事のご紹介や、やりがいなどをお話ししていた時のことです。
「ガイドの仕事では舞台裏の苦労もあるけれど、出会いや感動が素晴らしい魅力!長年勉強してやっとガイド現場に立ち、お客様に絶賛されて喜んでいただけた時の感動はひとしおです」
などと熱を入れて語ると、目を輝かせて興味津々に耳をかたむけてくれる学生さんも少なくありません。一方で、“ガイドで食べてゆかれるのでしょうか?” “自分の英語が外国人に伝わらないけど、どうしたら良いの?” “試験は難しそうで、自分には到底無理そう」
などの不安の声や、諦めの空気が漂う場面もありました。

その真剣な眼差しを見ていると、ガイド試験を受ける前の若い時代の自分の姿を思い出しました。そう、そんな期待や不安をもって憧れていた仕事を、今、しているんだ!異文化の懸け橋になりたい、外国人観光客に喜んでもらいたいという気持ちで一杯だった初心を、忘るべからず!です。原点に戻って振り返るのもいいかもしれません。

現在では資格がなくてもガイドとして働くことはできます。でも資格があれば内外からの信頼や信用、評価も高くなり、何よりお客様を安心させられます。苦労して国家試験に合格した、または研修を受講して認定を受けた時の感動をもう一度思い出して、日々、良い仕事をしなくちゃ。

やる気を継続するためには、あらたな目標を持つことも効果的です。そのために、まずはここまで頑張ってきた自分の姿を肯定してしっかり褒めてあげましょう。そして自分の幸運さに気が付いて感謝の気持ちを持つのです。この仕事ができる今の自分を支えてくれたのは誰?仕事やキーパーソンに紹介してくれたのは誰?その紹介者に出会えたのは誰のお陰?…ずっと辿ってゆくと、最後は自分をこの世に出してくれた両親に辿りつくのですが(笑)

そして、そこで立ち止まらずに、さらに上をめざすのです。

「苦しい時は上り坂」という言葉が好きです。苦しさを乗越えた後の自分は、一段上にあがっていて前とは違う景色が見えます。辛いときはグレードアップのチャンス。逆に楽な時は、平坦な道を進んでいるので進歩や向上がないのかもしれません。
「前回うまくいったから、同じようにやっていればよい」
のではなく、
「次回よりも、どうすればもっと素敵にできるだろうか…?」
を考え続けたら、他とは一味違うガイドサービスが自分の自信に繋がっていることでしょう。

これから目指したい自身はどんな姿ですか?一年に200日稼働するガイド?全国を回るガイド?高度な通訳もできるガイド?…ではそれを可能にするにはどうしたら良い?今の自分は何が得意で何が不足してる?それを克服するには何をしたら良い?それは誰に尋ねたらわかる?…突き詰めてゆくと、その第一歩として自分がなすべき事がきっと見えてきます。

そんな行動プランや指針を見据えるのに、年の変わり目は絶妙なタイミング。インバウンドが本格的に復活する2023年を前に、自分の棚卸しをトライしてみることをお薦めします。

ランデル 洋子(全国通訳案内士/GICSS研究会 理事長)

名古屋出身。フリーランスの英会話講師、海外旅行添乗員・海外駐在員、通訳ガイド、ビジネス通訳、アラスカツアーオペレーター事業運営などを経たのち、株式会社ランデルズにてグローバル人材育成や通訳ガイドの派遣・研修業務に携わる。元アメリカ大統領親族のアテンドなど重要業務を歴任しつつ、オランダIOU大学で異文化情報学博士号を取得し、GICSSを創設。愛知万博では日本(政府)館VIPエスコートのトレーニング講師を務めるなど全国での講演、研修、執筆活動に従事。また観光庁の通訳ガイド関連の委員会委員を歴任。日本の通訳ガイド育成の第一人者と定評がある。

著書:「電話の英会話」「英語を使ってボランティアしたい」「外国人客を迎える英会話」「通訳ガイドがゆく」など11冊。

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