目次
1. はじめにー国内外のラーメン人気ー
ラーメンは旅行者に人気が高い日本の料理です。「訪日外国人の消費動向調査」にもとづいた旅行者が食べたい料理のランキングでは、寿司に次ぐ第2位であるほか、観光庁が行った最も満足した料理に関する調査でも、肉料理に次いで第2位であるなど、期待値も実際の満足度も高いことが伺えます。
ラーメンは明治時代以降に登場した日本の料理ではありますが、現在では日本国内に24,000を超えるラーメン店が存在します。これは寿司店(約23,000)、蕎麦店(約19,000)、お好み焼き店(約9,000)、カレー店(約5,000)などと比較しても多いです。
この記事では、ラーメンの起源や多様な味のルーツについて紹介します。中華料理から影響を受けながら日本全国で食べられるようになった背景、ラーメンという名前の由来、味噌ラーメンや塩ラーメンなど代表的なラーメンがいつ頃から食べられているかなどを記載しています。
2. ラーメン誕生の歴史
ここではラーメンが生まれた経緯を紹介します。中華料理との関係があることは想像がしやすいかと思いますが、ラーメンはいつから食べるようになったのでしょうか。そのルーツは横浜の中華街にあると言われています。
中華料理から独自の進化を遂げた
19世紀、幕末の時代にラーメンの歴史は始まりました。黒船が来航し、日本に新しく貿易港が開かれました。数多くの外国人が日本にやってきて、中国の人たちも日本に移り住むようになり、中国の麺料理が広まりました。
1870年代に横浜中華街では、日本初の中華料理店が誕生しました。はじめは高級なコース料理が中心でしたが、一般人向けの中国料理店も増加し、日本人にも中華料理は親しまれるようになりました。
そして、1910年に東京でオープンした「来々軒」では、中国の麺料理と日本の食文化を融合させた中華そばが生まれました。そのため、「来々軒」が日本で最初のラーメン店として位置づけられています。来々軒では1日3,000杯もの中華そばを提供するなど繁盛していたそうです。その後、関東地方を中心にラーメンの文化が定着していきました。「来々軒」は戦後に移転し、1970年代には一度廃業しましたが、現在では新横浜ラーメン博物館にあるお店で当時の味を楽しめます。
日本全国にラーメンが普及したきっかけとなったのは、1923年に発生した関東大震災だと言われています。この震災でラーメン店が多く集まっていた東京や横浜は大きな被害を受け、店主たちが他の地域に移住したことから、全国へとラーメン文化が広まりました。
地域の食材や調味料を活用したり、それぞれの店舗での創意工夫よって、後述するように1930年代から1950年代にかけて多様なラーメンが誕生することとなりました。また、1970年代以降には欧米諸国でもラーメン店が開業するようになりました。当時は現地に在留する日本人向けのお店で、外国人はほとんど食べなかったそうです。本格的にラーメンが海外で食べられるようになったのは、「一風堂」をはじめとした有名店が進出した2000年代以降と言われています。
ラーメンの名前の由来
ラーメンは中華料理の影響を受けて誕生しましたが、なぜラーメンと呼ばれるようになったのでしょうか。その由来について、はっきりとしたことは分かっていませんが、3つの説が存在します。
一つは、中国語の「拉麺/ラーミェン」に由来するものです。中国語に、手で引き伸ばして麺を作る技法に「拉麺」という言葉があり、これが変化して「ラーメン」と呼ばれるようになったという説です。この他にも、中国語で「そば」の意味である「老麺/ラオシェン」が変化した説や、大正時代に東京・浅草にあった中華そば店の名前「柳麺/ラオミン」がなまったとする説もあります。
3. 多様なラーメンが生まれた歴史
ラーメンは麺、スープ、具材の3つの要素を組み合わせて、さまざまなレシピが生み出され、多様な味の発展に繋がりました。ここでは特に味を左右するスープを取り上げて、醤油、豚骨など代表的なラーメンのルーツを説明します。また、つけ麵、油そばのように、従来のラーメンから派生したものも紹介します。
多様な味
醤油ラーメン
スープの調味料に醤油を主に使用したもので、ラーメンの原型とも言える存在です。上記で紹介した「来々軒」でつくられたラーメンがルーツで100年以上の歴史があります。喜多方ラーメン、高山ラーメン、尾道ラーメンなど、全国各地のご当地ラーメンにも醤油タレをベースにしたものが多いです。
豚骨ラーメン
豚骨ラーメンは豚骨(豚を食肉として解体して残った骨)を煮込んだ出汁をスープの主原料として使ったラーメンです。そのルーツは諸説ありますが、いずれも1930年代~40年代に福岡県内で誕生したそうです。有力な説の一つとして、福岡県久留米市に現在も店を構える「南京千両」が発祥の地と言われています。当時横浜で流行していた中華そばと、店主の出身地長崎の名物である長崎ちゃんぽんの豚骨スープを参考にして出来上がったそうです。
味噌ラーメン
味噌ラーメンの始まりは1950年代に遡ります。現在も北海道札幌市で営業している「味の三平」の店主がみそ汁をヒントに工夫を重ねて、味噌を使ったラーメンを開発しました。これが雑誌で紹介されたことにより、味噌ラーメンの人気が高まり、他店でも味噌ラーメンを出すようになり、札幌の名物として定着しました。他の地域のご当地ラーメンにも味噌を使ったものがあり、宮城県や山形県では辛味噌を使ったラーメンが例として挙げられます。
塩ラーメン
塩ダレで味付けしたラーメンです。スープには豚骨を配合することが主流ですが、豚骨ラーメンほど豚骨を煮ださないため、濁らないのが特徴です。塩ラーメンのルーツは函館にあります。幕末に開国し、外国との貿易港として函館港が開かれたこともあり、近代以降には函館に多くの中華料理店が出来ました。中華料理の麺料理は塩味のスープが基本で、その特徴を受け継いだ「来々軒」「王さん」などの塩ラーメンのお店が1930~40年代に誕生しました。「来々軒」「王さん」含めて、当時からのお店は現在では閉業ていますが、函館ラーメンと言えば塩ラーメンであるという文化は残されています。
ラーメンから派生した麵料理
つけ麺
つけ麵もラーメンの一種とされていて、つゆにつけて食べるスタイルは1950年代に開発されました。「池袋大勝軒」の創業者が当時働いていたラーメン店で、まかない料理として、茶碗にスープを入れて麺を食べていました。それを見たお客さんが試食したいと言って、味わったところ好評だったため、実際にメニュー化したという歴史があります。池袋大勝軒は現在は閉店し、東池袋大勝軒として二代目店主が受け継いでいます。
油そば
油そばは汁なしラーメンとも呼ばれ、醤油ベースのタレに、ラー油、酢などの調味料を、麺に絡めて食べます。そのルーツは諸説ありますが、1950年代に東京都の西側の多摩地域で誕生し、他地域へ広がっていったと考えられています。発祥の家として有力な店として、武蔵野市に現在も店を構える珍々亭があります。ラーメンと比べても比較的安価でボリュームがあることから学生を中心に支持されてきました。
4. おわりにー案内する上でのポイントー
ラーメンを食べるだけでも日本の食文化の体験となりますが、ラーメン店での食前の待ち時間などにラーメン誕生の歴史をはじめとした記事の内容を紹介すると、旅行者の体験価値を高めることができます。また、旅行者がラーメンを食べる際は、アレルギーや宗教上の食事の忌避などを事前に確認した上でお店へと案内しましょう。
ラーメンに関する観光施設として、神奈川県横浜市の新横浜ラーメン博物館があります。ラーメンの歴史を展示あることに加え、麺打ちやスープづくりなど自分でラーメンをつくる体験ができます。
ほかにも、カップヌードルミュージアム(横浜市と大阪府池田市の2箇所)では日清食品の歴史に関する展示をはじめ、チキンラーメンやカップヌードルを自分で作る体験などを楽しめます。また、数は限られますが、ラーメンづくり体験や製麵体験を提供するラーメン店や製麵所もあります。
ガイドナビでは、ラーメンと同じく近代に誕生した料理をはじめ、日本の食文化に関する記事を掲載しています。