目次
はじめにー神楽に関わる代表的な神話ー
高千穂の夜神楽は地域で伝承されてきた伝統芸能です。高千穂峡の景観や神社巡りと並ぶ、見どころです。特に高千穂神社で行われる神楽は高千穂に宿泊する旅行者にとっては外せない体験です。また、地域の集落ごとに住民が神楽を行う習慣があり、生活文化を語る上でも重要なものです。
この記事では高千穂の夜神楽について案内する上で知っておきたい次の3つのテーマについて解説します。
- <テーマ1>神楽の起源と特徴
- <テーマ2>神楽の演目
- <テーマ3>神楽をより楽しむための体験
神楽に関わる日本神話
各テーマに入る前に日本神話について知っておきましょう。日本神話は神楽の起源、演目とも関わりが深く、特に重要となる「国生み・神生み」と「天岩戸神話」のストーリーをここでは概略的に紹介します。
国生み・神生み
遠い昔、日本の国ができる前の時代、神々の住む高天原(たかまがはら)というところがありました。ある時、神々は下界に新しい国を造ろうと考え、イザナギとイザナミという2柱の神に命じ、矛を授けました。
2柱は矛で地上をかき混ぜました。矛を引き上げる時にしたたり落ちた潮水が、積もり固まって出来たのがおのころ島です。イザナギとイザナミは夫婦となり、たくさんの神と国を産みました。その際に日本列島もできました。
天岩戸(あまのいわと)神話
高天原には、太陽神・天照大神(あまてらすおおみかみ)をはじめとする数多くの神が暮らしていました。中でも素戔嗚尊(すさのおのみこと)は田んぼを荒らしたり、馬の皮を剥いだりするなど大変な暴れ者でした。素戔嗚尊に怒った天照大神は天岩戸という洞窟に隠れてしまいました。
世界は暗黒に包まれ、作物は枯れ、疫病が流行します。困った神々が集まり作戦会議を開いて、天照大神を洞窟から出そうとある行動に出ます。
そこで登場したのが踊りの名人である女神・アメノウズメです。アメノウズメがおどけて踊りだすと神々はあまりの面白さに大声をあげて笑います。天照大神は「私がいなくて世界は大変なことになっているはずなのに、なぜ笑っているのだろう」と思い、洞窟から顔を覗かします。
周りの神々は「あなた様より高貴で美しい神が現れたからです。今お見せします」と言い、天照大神に鏡を見せます。鏡に映った顔が自分の顔だとわからなかった天照大神がよく見ようとして身を乗り出すと、力持ちの神が洞窟を一気に押し開け、無事に天照大神を外に出すことができたました。天照大神が戻ったことで世界に再び光が差しました。
<テーマ1>神楽の起源と特徴
ツアーで神楽を鑑賞する場合は、集合時や舞が始まる前の時間で、神楽の起源や特徴について説明しましょう。
日本における神楽
神楽は神事において神に捧げる舞です。現存する伝統芸能では最古の部類に入ります。起源は8世紀に古事記や日本書紀でまとめられた日本神話にあります。神話に登場するアメノウズメという神の踊りをもとに神楽が作られたと言われています。これは高千穂の夜神楽にも共通しています。神話の内容をもとに、平安時代に様式が完成し、宮中を中心に伝承されてきました。また、後にできた能や歌舞伎などの伝統芸能の影響を受けた演目もあります。
神楽の種類は大きく二つに分けられます。一般には公開されず、宮中で神に対して奉げる「御神楽(みかぐら)」や、地域の住民が神に五穀豊穣などを感謝して奉納する「里神楽(さとかぐら)」があります。里神楽は巫女が舞うものや、獅子舞いを使ったものなど、地域によって内容が異なっているのも特徴です。
高千穂における神楽
高千穂の神楽は、平安末期から鎌倉時代にかけて成立したと言われています。その歴史は約800年ほどです。江戸時代には、神社の社殿か神楽殿において、人々が舞を奉納していたそうです。
現在では日本神話をもとにした33の演目に整えられ、毎年11月下旬から翌年2月上旬にかけて、高千穂の各集落にある夜神楽の会場で、舞が奉納されます。高千穂には20ある集落があり、それぞれで演目を舞う順番などが前後する、題名が変わるなど、形式が若干異なります。また、高千穂神社の神楽殿では、年間を通じて観光客向けに代表的な4つ演目が披露されています。
現在では、神楽が神道信仰に基づく行事として行われていますが、日本の多様な文化の要素が混在しています。古代に発達した狩猟採集文化や農耕文化をはじめ、修験道や陰陽道も取り入れられています。
<テーマ2> 神楽の演目
高千穂の夜神楽を見学する際には、各演目の特徴について解説しましょう。ここでは演目の全体的な構成について紹介しつつ、代表的な場面を紹介します。加えて、高千穂神社で開催されている夜神楽の演目についてはより詳しく解説しています。
演目の構成
高千穂の夜神楽には33の演目があります。地域の集落によって舞う順番などが前後し、題目が変わりますが、ここでは代表的なものの内容について説明します。
1番の彦舞(ひこまい)から7番の幣神添(へいかんぜ)までは降臨した神々が地上の国をつくった場面を表現しています。3番・神降(かみおろし)、4番・鎮守、5番・杉登りは「式三番」と呼ばれ、特に重要視されていて、式典のような格式の高い場所で行う時は必ず舞うと言われています。
8番・武智(ぶち)から13番・地割(じわり)は刀を使った舞が中心となります。片足のすねに、もう一方の足の膝をつけて、腰を落とした姿勢から旋回して斬る動作が多いのが特徴です。
15番・袖花(そではな)で、重要な役であるアメノウズメが登場し、以降神様が入れ替わりながら舞が繰り広げられます。20番・御神体でのイザナギ・イザナミの二神による舞には、五穀豊穣、家庭円満の願いが込められています。
22番・伊勢神楽から27番・舞開(まいびらき)にかけては、岩戸五番と呼ばれる場面となります。夜神楽の中でも大変人気のある舞です。上記で紹介した天照大神が洞窟に隠れる天岩戸神話が題材になっています。
その後、天照大神の洞窟から出たことを祝福する神送りの舞などがあり、33番・雲下ろしで舞台となっている神庭に吊るした雲を引き下ろして、終演となります。
高千穂神楽の演目
高千穂神社の神楽殿では、年間を通じて夜間に神楽の見学が可能です。高千穂神楽と呼ばれるこの公演では、33あるすべての演目が行われるのではなく、代表的な4つの演目、24番・手力雄(たぢからお)、25番・鈿女(うずめ)26番・戸取、20番・御神体が披露されます。御神体の順番が通常の並びと異なるほか、夜通し行われる正式なものと比較すると、短縮版のため、1時間程度で気軽に鑑賞できます。
手力雄では、力自慢の神であるとされる手力雄命(たぢからおのみこと)が登場します。手力雄命の舞いは迫力があるのが特徴です。また、天照大神が隠れた天岩戸に耳そば立てるユーモラスな動きにも注目です。
鈿女では高天原きっての踊りの名手、アメノウズメが活躍します。神話では衣を脱ぎ捨てて踊り狂ったとされていますが、神楽での踊りは気品高くも美しいものになっています。
戸取では、手力雄命のお面が白から赤に変わり、力強さと荒々しさを表現しています。手力雄命が髪を振り乱しながら踊る舞は、演技に熱中するあまり演者の方は我を忘れてしまうほどだそうです。
御神体は「酒こしの舞」や「国生みの舞」とも言われています。イザナギ・イザナミの二神によって男女の交わりを表現した舞いが披露されます。いわゆる濡れ場ですが、昔と比べると上品な舞いになったとも言われています。
ガイドが高千穂神楽を案内する際は、旅行者には上記の舞を説明するだけではなく、手続き上の注意点や鑑賞マナーについて伝えましょう。高千穂神楽ではなく、地域の会場(神楽宿)で開催されるものを見学する場合には、御神前として現金を数千円か、高千穂の焼酎2~3本ほどを提供する必要があります。このほか、神庭への立ち入りや写真撮影に関しても集落ごとの決まりを順守してください。
<テーマ3>神楽をより楽しむための体験
高千穂の神楽に関するガイドは神楽を鑑賞するだけに留まりません。神楽のもとになった神話ゆかりのスポットを訪問したり、高千穂神楽面の色塗り体験をすることで、神楽への理解が深まります。
神楽に関連するスポット
高千穂町内に点在する神話の伝承地を紹介すると、一層神楽を楽しむことができます。特に説明しておきたいのが、岩戸地区の天岩戸神社と天安河原です。天岩戸神社は天照大神が隠れたとされる天岩戸を御神体として祀っていて、天安河原は天照大神を天岩戸から出すために、神たちが作戦会議を開いた洞窟とされています。
神楽での演目と関連するこれらのスポットを紹介しつつ、イザナギ、イザナミ、アメノウズメをはじめとした神楽に登場する神様についても解説しましょう。海外からの旅行者に対しては、神楽のもととなった日本神話の全体像や日本の文化における位置付けなどを伝えると、理解を助けることに繋がるでしょう。
また、訪問する時間がない場合には、高千穂の地図を見せながらどの場所が、どういう演目と関連があるのかを伝えるのも案内方法の一つです。
神楽面の色塗り体験
高千穂神楽面は舞の中で使用され、登場する神様を表現する重要なものです。また、幸せを招く縁起物のお土産としても喜ばれています。クスノキをはじめとした木材を使い、彫刻機械で粗く削った後は、すべて手作業で仕上げられます。
高千穂では神楽を鑑賞する時以外にも、お面の魅力を知る機会があります。神楽面の色塗りも観光体験として用意されていて、作業を通じて、色を付け方やしわの寄せ方で感情を表現するなど、お面ごとの個性や役割を深く知ることができます。
ガイドナビでは、この記事のほかにも高千穂に関するものを掲載しています。興味に合わせてぜひ参照ください。