【コラム】ガイドも怒るし、悲しくもなる!(ガイドの語る場・喜怒哀楽)

エピソード

このコーナーでは、毎回異なるテーマで開催するガイド座談会の様子をお伝えします。ガイド現場での嬉しかった経験、大変だったこと、思い出に残った出来事などを語ります。今回は3名の通訳案内士の皆さんにお話を伺いました。

出席者

・浅井淳子(フランス語 全国通訳案内士、2018年よりガイド業務)
・秋元伸子(英語 全国通訳案内士、2017年よりガイド業務)
・戸塚由美子(英語 全国通訳案内士、2012年よりガイド業務)

司会:今回はフランス語のガイドさんにも参加して頂き、また違った経験をお聞きできるのではと楽しみにしています。浅井さん、お願い致します。

浅井:私は、社会への怒りを通り越して悲しくなった経験があります。社会的問題が多い地区の子供たち(10~15歳)を、市がお金を出して夏休みに海外旅行させるという事業があって、日本が訪問地の年にフランスの子供たち十数人を10日間お迎えしました。学校もドロップアウトしている子供たちです。
最初の質問は「ナイキの靴は幾ら?」でした。大体の値段を教えてあげたら「作っている国なのになんでそんなに高いの!」と言うんです。

司会:どうしてそんな質問が?

浅井:今居るのは日本ではなく、ナイキの靴を大量に製造している中国だと思ってそう言ったそうです。子供らしい間違いで微笑ましいというより、学校に行っていないので知識、学力不足なのだろうな、今回の旅が視野を広げるきっかけになって欲しいなと願いました。大変だったのが食事。子供たちは全員イスラム教徒だったんです。

戸塚:ムスリムの方は食材が限られるので配慮が必要ですよね。

浅井:ハラールの肉は入手困難なので、提供する食事は肉なしで魚ベースとなり、結果魚介出汁を利かせた料理が主となりました。しかし、魚介出汁に馴染みのない子供たちは、そのうち嫌がって食が進まなくなりました。生い立ちから考えると、この子たちは非常に限られた食生活なのでしょう。嫌がる姿に私もなすすべがなく、悲しくなってしまいました。

司会:単純に「ちゃんと食べて!」と叱れませんよね。

浅井:移動のラッシュ時の電車の中で、15歳の女の子が突然床に座り込んだ時はショックでした。これは愛情に飢えている子が関心を引くための行動のようで、悲しくなるシーンでした。電車の中で女の子が座り込んだ異様な光景に、周りの通勤客は無関心というのも胸が締め付けられました。

司会:うーん、何と言ったらいいのか。

秋元:私は楽しい思い出の方が多いのですが、それでもこんなことがありました。ガイドを始めて間もない頃、先輩がアサインされた仕事のうち、どうしても都合がつかない1日を引き受けました。

司会:他のガイドさんから部分的に引き継ぎ、って難しいですよね。

秋元:アメリカの富裕層の、お母様と高校生の子供たち家族のご案内でした。運転手付きの貸し切りの車で原宿、渋谷、上野を回る予定でしたが、朝ホテルにお迎えに行ったらいきなりの予定変更です。

一同:富裕層あるある(笑)

秋元:お母様の友人が渋谷に住んでおり、そちらに連れて行ってくれとの依頼。運転手さんに説明し、指定の場所までお連れしました。午後2時半に表参道でピックアップしてとなり、車を一旦そこで返し、私はこの機会に原宿・表参道界隈を見て歩くことにしました。
ところが12時ごろ、私の携帯にお客様から電話がかかって来て「今原宿にいるので、一緒にお昼を食べよう」と。

浅井:あらら、また予定変更ですか!

秋元:幸い近くに居たので、昼食をご一緒しました。午後の予定変更と伝えようと運転手さんに電話をしますが、全く通じません。そのうち雨が降って来て焦って何度電話しても出てくれない。もうすっかり困り果ててしまいました。

司会:その焦る気持ちわかります。

秋元:結局タクシーでホテルに一旦戻ることにして、タクシーに乗った途端に運転手さんから電話がありました。お蔭で午後はホテルで一休みしてから、貸し切りの車で上野の国立博物館へ行くことが出来ました。

一同:まあ何事も無くて良かったですね。

秋元:それが、何事も無くないのです。ホテルで待機していたら元々のツアー担当の先輩ガイドから電話がかかって来て、「お客様から『秋元さんは運転手さんの電話番号も知らないで行動しているみたい』とメールが来たよ!」と言うではありませんか。
お客様は目の前で散々私が電話しているのを見ているはずなのに…と、怒りのような、一生懸命やっているのが認められなかった悲しみのような、複雑な気持ちで一杯になりガックリしました。

司会:それは落ち込みますねえ。

秋元:その後に行った国立博物館では、子供さんたちもお母様もとても興味を持って楽しんで下さってホッとしました。救われました。

戸塚:私はしっかり怒りましたよ(笑)。日帰り富士箱根ツアーの30名ほどのお客様の中に大学生らしきグループがいましたが、この人たちは初っ端から私の話なんて「興味ない」とばかりに適当に聞き流していましたね。

浅井:何か起きそうな雰囲気(笑)

戸塚:この日は富士急ハイランドの中のレストランで昼食、それから箱根でロープウェイと遊覧船に乗る予定でした。タイトなスケジュールで、予定より時間がかかると遊覧船の最終時刻に間に合わないので、絶対渋滞に巻き込まれたくない。ですから、昼食後は時間通りの出発が必須なのです。

司会:御殿場辺りでよく渋滞しますからね。

戸塚:お客様には理由をしっかり説明して「食事を終えたら、絶対この時刻までにバスに戻って来て下さい!」とホワイトボードに出発時刻をデカデカと書いて掲げて、念押ししました。

秋元:そう、それ定番ですよね。

戸塚:人気アトラクション「えーじゃないか」の横を通った時、いやーな予感がしましたが、当たっちゃいました。例の大学生グループのうち2人が出発時刻になっても未だ来ないんですよ。「どうして遅れているのかわかる?」と同じグループのメンバーに聞くと、この2人さっさと食事を済ませてジェットコースターに乗りに行ったらしいって。

浅井:大学生らしい行動ですね。

戸塚:結局10分遅れでやって来たので「他の皆さんは時間通りに戻って来てたのよ!」と、怒りました。2人は定時出発の理由を思い出して、自分たちが皆のツアーをダメにするかもしれなかったことを理解してSorry, sorryを繰り返していました。
とにかく出発して、バスの運転手さんには無理のない範囲で急いで頂き、何とか遊覧船に間に合ってホッとしました。運転手さんが「よくぞ言ってくれたね。だから私もスカッとして頑張れたよ」と言って下さって恐縮でした。

司会:お客様相手でも怒らなければならない時もあるのですね。終わり良ければ全て良し、としましょうか。本日は皆さんありがとうございました。

編集後記:
世界中から日本にやって来る外国の方々を相手にする通訳ガイドは、本当に色んな経験をするものだと、今回も思いました。自分だったらどうするか、どのような解決方法がお客様にとってベストか、皆さんのお話をヒントに考えてみようと思います。(司会・執筆:三浦陽一/GICSS研究会)

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