目次
1. はじめにーガイドスキルマップ策定の背景ー
この記事では、ガイドに求められる素養(スキルセットと行動基準)をまとめた「ガイドスキルマップ」について紹介します。
これまでガイドツアーの質は、ガイド個人の経験や勘に大きく依存していました。このような状況は、日本国内だけではなく、海外においても同様です。一般社団法人インバウンドガイド協会では、アメリカやイギリスなど世界8つの国・地域におけるガイド制度や人材育成に関して調査した「ガイド白書 2020」を刊行していますが、主要な国においてガイドのサービス品質に関する基準がありませんでした。また、UNWTO(国連世界観光機関)のガイドラインや、ISO(国際標準化機構)規格にもガイドを定義したものはなく、このことがガイドスキルマップ策定の背景となりました。
誰もが活用できる基準を作ることで、それぞれの地域におけるガイドサービスの品質が標準化され、旅行者はいかなる場所でも安心・安全かつ、満足度の高いサービスを享受できるようになります。それによってガイドの必要性が広く理解され、長期的にはガイドの活動機会の増加にも繋がります。
ガイドスキルマップは、旅行者の評価が高い優れたガイドに共通して見られる行動特性を、さまざまな調査をもとに体系化、構造化、言語化したもので、世界でも類を見ないものです。勘や経験による技術の向上ではなく、スポーツの世界でも既に行われているようなデータドリブン、エビデンスベースの科学的アプローチを取り入れています。ガイドが既に持っているスキルと照らし合わせながら、振り返りと実践を繰り返すことで、効率的で、確実なスキルアップができるような仕組みを整えています。
2. ガイドスキルマップの構造(領域/スキルセット/行動基準)
ここではガイドスキルマップの構造について解説します。
ガイドスキルマップは、「Mindset」「Basic Capabilities」「Communication」「Technique」「Knowledge」の5つの領域によって構成され、それぞれの領域には5つずつのスキルセットが紐づき、合計で25個のスキルセットによって成り立っています。そのうえでそれぞれのスキルセットには、基礎項目と応用項目の2段階に分けられた行動基準が定義されています。全てのガイドが満たしていることが求められる行動基準が基礎項目となり、より上級のガイドが満たすことが望ましい行動基準が応用項目となり、初級者から上級者まで幅広く、参照できる内容となっています。
以下ではそれぞれの領域におけるスキルセットと行動基準の具体例を紹介します。なお、ガイドスキルマップの詳しい内容については、インバウンドガイド協会の公式サイトから確認ください。また、自分のスキルを確認できるセルフチェックシートも準備されていますので、ぜひ活用してください。
Mindset
ガイドが職務遂行において適切な言動を取るために求められる心構えについて定めたものです。「顧客視点」「リーダーシップ」「柔軟性」「多様性の尊重」「倫理・法令順守」の5つのスキルセットにより構成されています。
「顧客視点」の基礎項目では、旅行者の状態に気を配ることや旅行者の期待値を意識し、満足度向上に努めることなどが求められます。さらに応用項目はより発展した内容となり、旅行者の潜在的な要望・興味を引き出すことができることや、旅行者の満足度を最大化するためにさらなる提案・改善を行うことが求められています。
「柔軟性」の基礎項目では、旅行者の要望に応じて適切な行動を取ることや様々な事象に対し先入観を持たず考え、行動できることが求められます。応用項目では、複雑な要望にも対応して適切な行動を取ることができること、業務中に予期せぬ要望・トラブルが発生した場合に臨機応変に対処できることがポイントです。
Basic Capabilities
ガイドの職務遂行において求められる一般的な基礎能力について定めたものです。
スキルセットは、「体力・健康」「論理的思考力」「創意工夫」「マネジメントスキル」「ITスキル」で構成されています。
「ITスキル」の基礎項目では、インターネット等を用いて情報収集ができることに加え、アプリ・ウェブサービスに関する比較的簡単なトラブルを自分で解決できることが求められます。応用項目では、アプリ・ウェブサービスの使用方法を他者に教えることができることや、自分が使っていない機器・アプリ・サービスについても理解を深めているなど、ITに関するよりレベルの高い知見が必要になります。
Communication
ガイドの職務遂行において求められる旅行者をはじめとする他者との意思疎通に必要な能力について定めたものです。スキルセットは、「言語力」「傾聴力」「発信・表現力」「調整・交渉力」「チームワーク」で構成されています。
個人の言語力や表現力も重要ですが、旅行会社や他のガイドとの連携を想定した「チームワーク」が特徴的なスキルセットです。
「チームワーク」における基礎項目としては、旅行会社等に対し、状況・業務完了の連絡を適時適切に行うことや、懸念・問題が発生した際に速やかに連絡・相談できることなどがあげられます。応用項目ではより主体性に踏み込んで、状況に応じて他のガイド・スタッフ等のサポートを率先して行うことなどが求められます。
Technique
安心・安全かつ満足度の高いサービスを提供するために必要なガイド特有の専門技能について定めたものです。スキルセットは、「旅程確認・提案」「旅程準備・管理」「安全管理」「危機管理」「演出」で構成されています。
特徴的なものとして、旅行者に感動を与え、記憶に残る体験を生み出すための「演出」があります。「演出」は上級者向けのスキルセットになるため、基礎項目では演出の工夫によりツアーの質が向上することを理解することのみになります。応用項目が主となり、クイズゲームや体験等、旅行者が主体的に参加できる要素をツアーの各所に盛り込み、参加を促すことができることや、ツアー中だけでなくツアー前後にも旅行者へ連絡し、満足度を向上させることができるなど、行動基準に記載された7種類いずれかの方法を実践して「演出」することが求められています。
Knowledge
旅行者の案内や職務遂行において求められるガイド特有の専門知識について定めたものです。スキルセットは、「歴史」「社会・文化」「地理・地域特性」「国際」「業界」で構成されています。
「歴史」における基礎項目では、史跡や文化施設を訪れた際に、展示物や主要な歴史・文化について説明できることなどがあげられます。。応用項目では、他国や他地域の歴史上の出来事との関係性を交えて説明できることや、歴史に関する繊細な内容に配慮することができるなどが求められています。
3. おわりにーガイドスキルマップの効果ー
ガイドスキルマップは、ガイドの人材育成や評価、学習計画などで活用できます。自治体や観光協会・DMO、ツアー会社、ガイド団体等、組織や団体のニーズに合わせた利用が可能で、以下のような効果が期待されています。
- それぞれのガイドの強みや弱みが明確となり、スキルアップのモチベーション向上に繋がる。
- 育成方針やカリキュラムが体系立てて適切に策定され、ガイドの人材育成に関する取り組みの実効性が向上する。
- 明確な基準に準拠した評価を行うことで、ガイドの能力やサービス品質等の実態に即した適正な報酬を設定できる。
- ガイドの特徴や強みを把握することで、旅行者のニーズに沿ったガイドの手配を行うことができる。
これからガイドを目指したり、更なるスキルアップを図ったりする際、より効果的に学習成果を上げるためには、経験や勘に頼るのではなく、ガイドに求められる素養や自分自身のスキルを体系的に把握する必要があります。そのための指針・フレームワークとして、ぜひガイドスキルマップを活用ください。ガイドナビでは、この他にもガイドのスキルアップに役立つ様々なテクニックに関する記事を配信しています。