【北海道】北海道の先住民族・アイヌ民族の文化を学ぶ

ナレッジ

1. はじめにー日本列島北部における先住民族・アイヌ民族ー


日本では地域によってさまざまな文化が存在します。例えば、京都や奈良ではアジアから伝来した仏教文化が残り、横浜や神戸など近代に発展した都市では、欧米から伝わった食文化や建築技術の影響を受けています。一方で北海道には本州と異なる特徴的な文化があり、それはアイヌの文化に大きく影響を受けています。

アイヌの人たちは日本列島北部における先住民族として認定されていて、北海道を中心に約1万3,000人程度が日本で暮らしています。現代化された今の生活は和人とそれほど変わりませんが、100年以上前は独自の生活風習を持っていました。

アイヌ文化の復興・発展を目的とした施設であるウポポイが2020年に開設されたこともあり、北海道においては自然の絶景や美味しい食事とあわせて、アイヌに関する観光体験が注目されています。この記事では、アイヌ民族の文化を6つの項目(言語、住居、食、信仰、芸能、工芸)に分けて解説します。

2. アイヌ民族の特徴 ①言語


アイヌ民族は、独自の言語である「アイヌ語」を話しています。アイヌ語は日本語や隣国のロシアに住む民族の言語とも系統の違う、独特な言語です。大正時代になってからローマ字やカタカナを用いて表記されるようになりましたが、民族としては歴史的に文字を持っていませんでした。
アイヌが暮らした地域にはアイヌ語由来の地名が多く見られ、代表的なものに札幌市があります。市内を流れる川をアイヌの人たちが「サッ(乾く)ポロ(大きい)ペッ(川)」と呼んだことに由来しています。

  • 小樽:オタ・オル・ナイ(砂・中・川)
  • 洞爺:ト・ヤ(湖・岸)
  • 富良野:フラ・ヌ・イ(匂いのするところ)
  • 室蘭:モ・ルラン(小さい・坂)
  • 知床:シリ・エトク(地面の・出っ張った先端)

アイヌ語はアイヌ民族が暮らした北海道、東北などで話されていましたが、江戸時代末期までに、東北のアイヌは和人と同化させられため、アイヌ語を話さなくなったそうです。北海道のアイヌについても、明治時代以降は教育に日本語のみが用いられたことや、都市部を中心に和人が入ってくると、アイヌ民族やその文化は「未開」「原始的」と蔑視され、次第にアイヌ語は使われなくなりました。

明治32年(1899年)には「北海道旧土人保護法」が制定され、言語面だけでなく文化・風習の面でもアイヌは日本人との同化が進められました。現在、アイヌ語はユネスコによって消滅の危機にある言語とされています。最大レベルのランク付け「極めて深刻」な状況で、アイヌ語の話者は極めて少ない状態にあり、文化の継承が課題となっています。

3. アイヌ民族の特徴 ②住居


アイヌの人たちは、アイヌ語で家を意味するチセと呼ばれる建物に住んでいました。ハシドイやヤチダモなどの木材、アシやササといった草など、すべて自然のものが使われていました。建物正面の窓は神様が出入りすると言われ、とても大切にされていました。建物の奥には宝物を置く場所があり、漆器や刀などが飾られ、その上には家の神様が祀られていました。伝統的な和人の住居と似ている点として、客の席、家族が座る場所、寝る場所なども決まってたいそうです。

チセが数軒から十数軒集まり、コタンと呼ばれる村を形成していました。コタンとして選ばれる場所は、食べ物や飲み水が手に入りやすい川や海沿いの場所が多かったようです。伝統的なチセは、時代の流れのなかで姿を消してしまいましたが、博物館や伝承活動が盛んな地区では復元されたチセを見ることができます。

4. アイヌ民族の特徴 ③食


アイヌの人たちの食生活には狩猟採集の文化が残っていました。森、川、湖など周りにある自然の中から、生きていく上で必要な食料を調達しました。自然と共生していくための知恵も受け継がれていました。狩りで手に入れた動物や魚介類は食べきることをせず、長い冬や飢饉などに備えるために蓄えられました。また採集する植物も、必ず根を残し、翌年の分を確保していました。

調理には、煮る、焼く、炊くなどの方法が用いられました。動物からとった油脂や塩などで整え、汁物やおかゆなどに調理していました。無駄なく食材を使い、素材のうま味を引き出しているのが特徴です。季節によっては動物や魚を生で食べることもあったと言われています。
また、祖先の供養や結婚式などの行事で、雑穀類を炊いたものや、団子などの特別な料理も作られました。これら年に数回しか食べられず、祖先や神々とともに味わうものとされていました。

5. アイヌ民族の特徴 ④信仰


アイヌには自然との共生の中で生まれた独自の信仰があります。信仰の分類としてはアニミズム(生物・無生物を問わず、すべてのものに霊魂が宿っているという考え)に当たります。その信仰の象徴な存在として「カムイ」があります。カムイとは神、霊的存在、人間の力が及ばないものなどを意味する言葉です。アイヌの人たちは自分たちを取り巻く自然・環境のうち、特に重要な働きをし、強い影響があるものを「カムイ」と呼びました。カムイは自分たちを常に見守っており、動物、植物、火や風、流行病もカムイとされました。

あらゆるものに霊的存在がいるという意味では、神道における八百万の神の考えと重なる部分もありつつも、大きな違いもあります。神道における神は畏れ多い存在ですが、アイヌにとってのカムイは人間と対等な存在だと考えられています。

カムイには一定の使命を帯びて人間界に降りてくるとされています。例えば、山のカムイは人間界にはヒグマの衣服をまとい、肉や胆と毛皮を人間にプレゼントしに降りてくると考えられています。アイヌはカムイからの贈り物に感謝し、祭りによってカムイをもてなし、再び神の国へと送り返す儀式を行います。鮭が大漁に採れることを祈るもの、伝染病を避けることを祈るものなど、さまざまな儀式があります。

6. アイヌ民族の特徴 ⑤芸能


アイヌの人たちは独自の芸能も受け継いできました。特徴的なものとして、カムイを送り返すときや、祝いの席で踊られる「古式舞踊」があります。2009年にはユネスコの無形文化遺産に登録されています。芸能ではあるものの、信仰との関わりも深いため、アイヌの人たちの思想を感じることができます。

踊りは4種類あります。

  • 作業歌舞:農作業や酒を醸すときなどにあわせて踊ります。代表的な演目として「杵搗き(つえつき)歌」や「ざるこし歌」などがあります。
  • 儀式舞踊:祭事の時に神へ奉納するために踊ります。代表的な演目には「剣の舞」「弓の舞」などがあります。
  • 模擬舞踊:狩猟採集の対象である動植物を表現したものです。代表的な演目として「鶴の舞」「狐の舞」などがあります。
  • 娯楽舞踊:即興性を楽しむなど遊びの要素を含んだ踊りです。代表的な演目に「棒踊り」や「色男の舞」などがあります。

また、踊りと合わせて歌も披露されます。代表的な形式として、数人が座って手拍子を取りながら歌うもの、輪になって時計回りに動きながら歌うものなどがあります。村によって踊りや歌が少しずつ異なっていたと言われ、アイヌの踊りを継承するため、札幌、白老、平取など、北海道の各地に保存会が存在します。

7. アイヌ民族の特徴 ⑥工芸


アイヌ民族には工芸品が数多くありますが、その中でも木製の盆である「二風谷(にぶたに)イタ」と樹皮を織ってつくられる反物である「二風谷アットゥシ」が国指定の伝統工芸品として認められています。

いずれの工芸品にもアイヌ文様が使われ、「モレウ(渦巻きの形)」と「アイウシ(とげの形)」「シク(ひし形の目のような形)」などの組み合わせによって作られています。文様は袖口や襟元から悪い霊が入り込むのを避ける魔除けの意味があり、工芸品に限らず身の回りのあらゆる道具に、カムイへの祈りを込めて施されることから、アイヌ民族にとってアイデンティティの一つとも言える存在です。

歴史的には、最も古いアイヌ文様についての記録が江戸時代後期に確認されています。そのルーツについては諸説あり、北海道の続縄文時代の土器の模様やサハリンの民族の模様に由来するなどと言われています。

8. おわりにー高まるアイヌへの注目ー

アイヌ民族の文化に関して、6つの特徴を解説しました。北海道では札幌、平取町、釧路などで、この記事で紹介したようなアイヌの文化をより詳しく学べる施設があります。

近年では、漫画・アニメで人気作品となった「ゴールデンカムイ」がアイヌへの注目を高めています。ゴールデンカムイは、明治末期の北海道・樺太を舞台にした金塊を巡るサバイバルバトル漫画です。ヒロインがアイヌであるほか、アイヌの人が数多く登場します。2014年から2022年にかけて連載され、2018年からはテレビアニメも放送され、国内外の若い世代に人気があります。作中にはアイヌの登場人物が数多く登場し、アイヌの生活文化に関する細かな描写がされていることから、アイヌの研究者の評価も高いです。また、北海道の現存する建物や施設が登場することから、それらの場所を実際に訪問する「聖地巡礼」を楽しむ旅行者もいます。

ガイドナビではアイヌ民族の歴史や二風谷アットゥシに関わる日本の織物を紹介した記事を掲載していますので、ぜひあわせて参照してください。


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