【コラム】通訳ガイドが価値を上げる!?(ガイドの、ガイド)

エピソード

アドベンチャートラベルやSDGsフィーチャーのツアーのニーズが認識され、外国人観光客を迎える準備を整えて強化しようとする動きが全国的に広まっています。日本にはほんとうに興味深い、すばらしい伝統や文化、慣習があることを再認識する日々。しかし、それを外国人に楽しんでいただく時に「ああ、この場に通訳ガイドがいれば戸惑いもなく、地元の人々の気持ちもよく伝わって、楽しい時を過ごしてもらえるのになあ…」と、残念に思うことがあります。言い換えれば、ここが通訳ガイドの活躍すべき場だ!と実感。

リアス式海岸付近で海の幸が豊富な地域では、昔から「夫ひとり養えんようでは妻の資格がない」「潜れなけりゃ嫁にゆけぬ」とまで言われた海女さんの存在がユニークです。海女さん達が1回50秒の素潜り勝負で獲ってきたアワビやサザエ、海藻を含め、海・川の魚、野菜、米、酒など多種の食材を並べた神饌料理(神様にお供えするお食事)を頂く機会がありました。自然の中で危険と隣り合わせの仕事では、神様に対する想いも強いのですね。

目の前の炉端で焼いてもらうアワビや海老の美味なること、それは絶品で贅沢な食事です。しかし、そのあまりにも多種な素材が並ぶ豪華な食事を目の前に戸惑いもありました。

「20種類以上ある小皿の食べ物は、どういう順番で食べたらいいの?」
外国人が和食を食べる時によく聞かれる質問です。一つ食べたら次の料理が運ばれてくるサービスなら迷いようもないのです。が、お盆の上にドーンと一度にお皿や小鉢が並べられてくると、お好きな順番でお召し上がりくださいと言われても、それぞれがどんな味なのかわからなければ、一瞬途方にくれます。外国人の場合は、マナー違反の食べ方をしたら失礼ではないか?などという不安もあるので、
「こういう順番で食べる方が多いですよ」
というアドバイスがあると安心して、美味しく賞味できるように思います。お店の人から説明がなかったら、そこで通訳ガイドが率先して確認し、お客様ケアをしたいものですね。

さて、食べ始めた途中で、小皿にマヨネーズや塩も置いてあるのに気が付きました。これらはどの食材に使ったらよかったのか?
「ご自由に使ってください」
あ、そうか…天然素材の持つ本当の味を賞味するのが大切なのかとモクモクと食べていたけれど、いろいろな味付けが楽しめたんだ。なぜ最初に、もっとじっくり出されたものを全部細かく確認してから食べ始めなかったんだろう!と自己反省。辛子はこの食材につけ、天ぷらはこのつゆにつけて食べますよと説明しないと、外国人客が天つゆをスープとしてそのまま飲んでしまう事件!?も起こります。これらも食べる順番と合わせて説明したいですね。

食事も終わりに近づいてふと気が付くと、いちばん離れた位置に空のお皿とナイフ・フォークが置かれたままです。ナイフ・フォークを使って食べるお料理が後から運ばれてくるのかなあ?と漠然と心待ちにしていたのですが、尋ねてみると
「外国人客向けとして置いておきました」
なるほど。ナイフ・フォークだけ置いてあれば気にもならなかったけど、お皿があったので何か出ると誤解してしまう。最初に「自由に使えるよう準備しました」と、聞いていれば悩まなかったのでした。当然わかるだろう…は落とし穴なのです。

食事が終わるとエンタテイメントタイム。海女さん達が輪を作って踊りを踊ってくれました。とても盛り上がる楽し気な場面です。さあここで、「踊ります~」だけで始まった踊りの輪を眺めるお客様の頭には何が浮かんでいたでしょう?歌はどんな意味なの?どんな時に踊るの?笑顔ながら半ば茫然と写真撮影に専念となります。「よろしければご一緒に」と突然言われても一瞬のひるみが伴います。こんな時こそ通訳ガイドがショーの司会者よろしく場を仕切ってリードすると、気の弱いお客様も輪に入って楽しめることでしょう。
「この民謡の意味は…。この振りの意味は…。簡単な振りの繰り返しですから海女さんを真似て踊ってみましょう」

食事と踊りのあとは海辺の傍の海女小屋に立ち寄りました。
「ここで体を温めて噂話や亭主の悪口など(笑)、世間話の女子会をやるんですよ…」
の話で親近感を覚えるのですが、そこで気が付いたのは2時間もご一緒してくれた海女さんの名前も知らないこと。

どうも日本人は、自己・他己紹介というのが得意でないようです。最初にお会いした時に「私は〇〇です」などの紹介がなかったら、通訳ガイドが「本日お世話くださる〇〇さんと〇〇さんです」 そして逆にお客様も「フランスからいらした~~さんと、~さんです」などと、その場に同席するメインの人々の一人一人にスポットライトを当てる瞬間を創って、早く双方に親近感を覚えてもらえると和が促進できるなあと思ったことでした。

そう、通訳ガイドの存在は貴重。ガイド自身も楽しみながら、良い観光素材をさらにイキキと輝かせるツアーの成功の鍵なのですね。

 

ランデル 洋子(全国通訳案内士/GICSS研究会 理事長)

名古屋出身。フリーランスの英会話講師、海外旅行添乗員・海外駐在員、通訳ガイド、ビジネス通訳、アラスカツアーオペレーター事業運営などを経たのち、株式会社ランデルズにてグローバル人材育成や通訳ガイドの派遣・研修業務に携わる。元アメリカ大統領親族のアテンドなど重要業務を歴任しつつ、オランダIOU大学で異文化情報学博士号を取得し、GICSSを創設。愛知万博では日本(政府)館VIPエスコートのトレーニング講師を務めるなど全国での講演、研修、執筆活動に従事。また観光庁の通訳ガイド関連の委員会委員を歴任。日本の通訳ガイド育成の第一人者と定評がある。

著書:「電話の英会話」「英語を使ってボランティアしたい」「外国人客を迎える英会話」「通訳ガイドがゆく」など11冊。

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