【コラム】中国語 全国通訳案内士/木下 敦子(いろいろガイドの輪)

エピソード

こんにちは。中国語全国通訳案内士の木下 敦子と申します。出身は佐賀県佐賀市で、現在は石川県金沢市在住です。2013年に通訳案内士の資格を取得し、ガイドの仕事を始めました。

ガイドを始めたきっかけは、元々は、唯一の語学系の国家資格と言われる通訳案内士の資格が、単に欲しかったからです。はじめはガイドをやる気はまるでなかったのですが、せっかく資格を取得したので、気軽にやってみるかという感じでした。また、夫が転勤族ということもあり、この資格を持っていれば、全国どこにいても仕事があるのではないかという思いもありました。そういうわけで、ガイドのスタートは名古屋でした。その後、東京に転居し、去年から金沢に住んでいます。

なにせ気軽にやってみるかと、なんとなく始めてみたので、恥ずかしながらゲストに色々教えてもらうこともありました。はじめてのFITで、マレーシアからのご家族を案内した時のことでした。旅程は、伊賀市で忍者のパフォーマンスを見るものでした。伊賀市は町全体で忍者を感じられるような、電車や看板や置物などがあります。「ここにも、あそこにも忍者がいるよ!」とゲストと一緒に楽しんでいたら、一人の方から「あなた、ちゃんと私たちのスケジュール管理している?時間は大丈夫?」とたしなめられてしまいました。ガイドにとって大事な旅程管理をゲストに教えてもらう顛末でしたが、こうして少しずつ、ゲストと接することでガイドとしての経験も知識も蓄積されてきたかなと思います。

そんな中で一番思い出に残っているゲストは、先輩ガイドのピンチヒッターで対応した、はじめての富裕層のゲストです。私はガチガチに緊張して、ゲストを待っていました。車から降りてきたゲストはお会いするなり、「どんな楽しいところに連れていってくれるんだ?」と言われ、先制パンチを受けた私はタジタジでした。世界中の良いものを知り尽くしたゲストを、私が満足させられるのか…そんな不安を抱えつつツアーは始まりました。はじめは、旅行会社が提示したところや、ゲストのリクエストを元にご案内することにしました。ゲストの好みに美術館とあり、早速、開館している美術館を探して、作品鑑賞をしました。すると、「こういう作品は、俺たちは普段からみているんだよ」と、ゲストの反応は良くありませんでした。出だしでこれはマズいと私は焦りました。

タイミング良く、ゲストが来られた時は桜が美しい時期でした。旅程にも某スポットで桜を見ると記載されていました。ここで満足させられなかったら、ますます心象が悪くなると思った私は、旅行社やドライバーさんと相談して、訪問先を変えることにしました。そして、私のお気に入りスポットでもある、名古屋の「日本さくら名所100選」の一つ、山崎川にゲストをお連れしました。山崎川の良いところは、川沿いで基本的には露店などが出ておらず、桜を愛でるところに醍醐味があります。また、地元の子どもたちが川沿いで遊んでいたり、近所のご婦人が犬の散歩をしたりして、まさに、日本の暮らしの風景そのもの。この風景を見たゲストが、「そう!こういうのが見たかったんだよ」と言ってくれました。ゲストのご家族が地元の方にとけこんで、桜並木を歩いている様子を見たとき、私は心の中でガッツポーズを作りました。
今でも桜を見ると、そのゲストのことを思い出します。普段からの下見、好きな場所を見つけておくことは大事だなと思わせてくれるゲストでもありました。ガイドの仕事は確かに大変なこともありますが、それを乗り越えて、ゲストが喜んでくれる姿を見ると、それまでの苦労が吹っ飛びます。

今はコロナ禍で、金沢に来てガイドの仕事がまだできていないことが残念です。金沢には兼六園、金沢城、金沢21世紀美術館、茶屋街など主要観光地で素敵な場所は沢山ありますが、今、私のお気に入りスポットは金沢市内の大野・金石などの海沿いの地区です。海の幸が味わえる市場があったり、見学や体験ができる醤油や味噌の醸造会社があったりと、金沢の食文化を支える地区とも言えます。また、古い街並みが残っていたり、その建物を活用したおしゃれなカフェがあったりするので、写真に映えるスポットをゲストと散策するのも楽しそうです。
少しでも早く、ゲストをこの素敵な金沢の街にご案内できることを楽しみにして、今日も下見に出かけます。

それでは、「ガイドの輪」のバトンを、末石靖知さんへお渡しします。末石さんは、私がガイド当初から学ばせてもらっている中国語ガイド仲間です。多才でホスピタリティあふれる末石さんのお話、私も楽しみです!


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