【宗教】イスラム教の基礎知識とガイドのポイント

ナレッジ

1. はじめにーイスラム教に関する基礎知識ー


旅行者を案内する際、宗教への配慮は重要なポイントです。イスラム教徒(ムスリム)に対しては、礼拝や食事の忌避などの配慮が求められるほか、さまざまな点で注意が必要です。なお、ムスリムとはアラビア語でイスラム教徒を意味しています。

一方で、信仰の形や程度は個人によって大きく異なります。イスラム教における基本的な教えを理解した上で、旅行者を案内する際は一方的に決めつけることなく、それぞれの旅行者に合わせた対応をしましょう。

イスラム教の概要

イスラム教は7世紀初頭に布教がはじまった宗教です。唯一神・アッラーへの絶対的な服従が求められ、預言者のムハンマドが神から受けた言葉をまとめたコーランを啓典としています。コーランの教義の中でも、生活の基本となっているのが「六信五行」です。6つの信条対象が「六信」、5つの義務が「五行」であり、具体的には以下のものになります。

六信

  • アッラー(唯一絶対神)
  • 天使(神様のお使い)
  • 啓典(神様の声の記録としてのコーラン)
  • 預言者(神様の言葉を伝える)
  • 来世(死後の生命と復活)
  • 天命(神によって決められた運命)

五行

  • 信仰の告白(神様への信仰を声に出して示す)
  • 礼拝(1日5回のお祈りをする)
  • 喜捨(裕福な人は貧しい人に施しを与える)
  • 断食(イスラム暦9月の1か月間、日中の飲食を断つ)
  • 巡礼(一生に一度は聖地へ訪れる)

日本を訪れるムスリムの旅行者

世界で16〜18億人もの人々がイスラム教を信仰しています。サウジアラビア、アラブ首長国連邦といったアラブ諸国を中心に、北アフリカ、西アジア、東南アジアなどに多くのムスリムが住んでいます。
イスラム教徒と聞くと、アラブ諸国のイメージが強いかと思いますが、日本を訪れるムスリムの旅行者はアラブ諸国よりも、それ以外の地域から訪れる方が多いです。2010年代後半にはマレーシア、インドネシアといった東南アジアからのムスリム旅行者が増加しました。毎年数十万人が日本を訪れた実績もあり、今後ムスリムへの対応は一層重要となります。

また、イスラム教ではスンニ派とシーア派という宗派が報道などで取り上げられることが多いですが、旅行者を案内する上では、宗派によって対応を変える必要は特にありません。それよりも旅行者ごとに信仰の形や程度が異なる点に配慮しましょう。

2. ガイドが注意すること ①食事の忌避


イスラム教には、生活の基本とされる六信五行以外にも、守るべきことがあります。ここでは食事の忌避について紹介します。注意すべき点は細かいものもありますが、必ず押さえたい3つのポイントを説明します。具体的にはアルコールを避ける、豚肉由来の食品は避ける、豚以外の肉でもハラールのものを選ぶです。

基本的なルールは、どのイスラム教徒にも共通していますが、どこまで厳格に守るかは地域や個人によって変わってきますので、旅行者を案内する際に直接確認するようにしましょう。

アルコールを避ける

イスラム教徒はアルコールの摂取を禁止されています。日本では考えにくいことですが、イスラム教が主要な宗教の国では、お酒は表立って販売されていません。イスラム教が信仰されている国でお酒を購入するには免税店などに限定され、アルコール提供が認可されたレストランやバーなど限られた場所でしか飲むことができません。

飲み物に限らず、料理酒や香りづけ用のワインをはじめ、しょうゆやみりんなどの調味料もアルコールが含まれているため、イスラムの教えでは避けるべき対象となります。日本食を楽しみたいムスリム向けにアルコール分を除いたハラールの調味料も近年では作られています。

ただし実態としては、お酒を避ける旅行者は多いですが、調味料については微量なため問題ないと判断する旅行者もいます。料理の注文や飲食店を選ぶ際に旅行者に確認するようにしましょう。

豚肉由来の食品は避ける

イスラム教では豚肉を食べてはいけないという決まりがあります。豚肉そのものだけではなく、豚由来の成分やエキスが入った食品にも注意が必要です。具体的としては以下です。

  • 豚肉の加工食品(ハム、ソーセージ、ベーコンなど)
  • 豚のエキスや脂を使ったもの(ラード、豚骨スープなど)
  • 豚由来の調味料・添加物(ゼラチン、コラーゲンなど)

豚肉を食べない理由としては、豚は不浄な動物であるとされているためです。イスラム教ができた時代には残飯や生ごみの処理を豚にさせていて、節操なく何でも食べる姿を見て、貪欲で不潔な存在だと見なされたとも言われています。また、豚肉を加熱が不十分のまま食べてしまい寄生虫による食中毒が起きていたので、それを避けるために不浄としたとも言われています。

豚以外の肉でもハラールのものを選ぶ

牛、鶏、羊などの肉は食べてもよいとされていますが、イスラム法にもとづいた屠殺方法で処理された肉である必要があります。具体的には、屠殺する人がイスラム教徒であることや、血を抜いてから解体するなどのルールが定められています。

イスラムの教えで許されたものを「ハラール」と言い、これに適合した食品は一般的に「ハラールフード」と呼ばれます。逆に豚肉やアルコールのように禁止されたものは「ハラーム」と言います。
実際に多くの旅行者は豚肉は避けます。その一方でハラールフードの食肉であるかは、気にしない人も一定数いるので、確認した上で食事を取るようにしましょう。近年では日本国内でもハラールの認証制度も整いつつあり、厳格にハラールを守りたい旅行者には、認証を受けた飲食店を紹介しましょう。

3. ガイドが注意すること ②ラマダン

ラマダンはイスラム教の五行のひとつである断食を行う期間です。ラマダンという言葉は、イスラム暦の9番目の月を意味していましたが、断食の期間を意味する言葉として理解されることも多いです。

ラマダンの約1か月間、イスラム教徒は日の出前から日没までの時間、一切の飲食が禁じられているほか、喫煙や性的な営みも禁止されています。これは食事をしないことが目的ではなく、欲望を遠ざけて、信仰をより深めることを大事にしています。身分に問わず、空腹や乾きの辛さを分かち合うことで、ムスリム同士の連帯感を高める側面もあります。

また、日中は断食していますが、日没後から日の出前までは飲食は許されています。日が暮れると、ムスリムたちは夜遅くまで外出して、家族や友人らで食事を楽しみます。お祭りのような雰囲気もあるようです。また、事情のある人は断食が免除されます。妊婦、乳幼児、高齢者などが該当するのですが、その中に旅行中の人も入ります。そのため、ラマダン期間中のムスリムを案内する場合、ラマダンを行っているかどうかを確認する必要があります。

4. ガイドが注意すること ③礼拝

毎日のお祈りもイスラム教徒にとって重要な務めです。礼拝は1日5回(夜明け前、昼、午後、日没時、夜)、イスラム教の聖地とされるサウジアラビアのメッカのある方角に向かって、10分程度かけて行います。礼拝のタイミングは日の出と日の入りをもとにして決まるので、日々変わります。

そのため、ムスリムたちは礼拝時間のチェックが欠かせません。礼拝時間をまとめた表を携帯している人もいますが、最近では世界中どこにいても、正確な時間と方角が分かるアプリも提供されています。

ガイドとしては、礼拝前と礼拝場所に関して注意すべきです。礼拝前には、顔から足先まで流水で体を清める必要があります。トイレの洗面所で行う人もいますが、周りの目が気になる旅行者もいます。その場合には水の入ったペットボトルを準備して別の場所で行ってもらうのも一つの方法です。

近年、空港や海外の旅行者がよく訪れる大型のショッピングモールに礼拝所が設けられていることも増えましたが、日本国内ではまだまだ専用の礼拝場所は少ないです。礼拝所がない場合には、会議室などの空き部屋など、人目のつきにくい場所を確保することが求められます。
一般的には、モスクや礼拝所では男女が分かれてお祈りをします。そのため、礼拝場所も男女で別の場所を確保するのが望ましいですが、時間を分けて順番にお祈りしてもらうことも対応策となります。

実際には、礼拝の回数を旅行中は5回から3回に減らす、2~3回分の礼拝をまとめて行うなど柔軟に行っている場合もあるので、礼拝の時間を確保すべきか事前に旅行者に相談するとよいでしょう。

5. ガイドが注意すること ④異性との関係

異性との接触

異性との関わり方についても注意が必要です。ムスリムは男女ともに、異性との接触を避けます。これはコーランに基づいて、貞潔(ていけつ)を守ることが定められているためです。不快感を与えてしまう可能性があるので、旅行者に異性がいる時はボディタッチはもちろん、相手から求められない限り握手も避けた方がよいでしょう。そのほか、異性と二人きりになることは避けるべきとされているので、旅行者が女性のみの場合には女性が案内すること望ましいです。

肌の露出を避ける

ムスリムは男女ともに肌の露出を極力避けます。これは異性を誘惑しないようにするためです。特に女性は顔と手以外を隠し、家族以外には見せません。アラビア語で「覆うもの」を意味するヒジャブと呼ばれる布でまとった服を着ます。

6. おわりにー関連する記事ー

この他にガイドが気をつける点として、偶像崇拝の禁止があります。理由としてはアッラー以外のものを信仰することに繋がり、唯一神・アッラーに対する反抗とみなされるためです。偶像は神そのものではなく、人間によって作られた人工的なものにすぎないと考えられています。

また、神への冒涜に繋がるため、寺社仏閣への立ち寄りを避けるムスリムもいます。訪問する前には寺社仏閣に入ることが問題ないか確認するようにしましょう。訪問を許容する旅行者であっても、お守りやおみくじを渡すなど、信仰に関わることは避けた方が無難です。

ガイドナビでは、ヒンドゥー教徒など、その他の宗教を信仰する旅行者を案内する際のポイントをまとめたを掲載していますので、ぜひ参考にしてください。

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