【コラム】残されたスーツケース(転ばぬ先のガイド事件簿)

エピソード

このコーナーでは、皆さんの今後の活動の参考にしていただくよう、全国のインバウンドガイドの様々な体験、失敗談のエピソードを紹介致します。今回は神奈川県在住の全国通訳案内士、大久保真弓さんにお話を伺いました。東京からの日帰りパッケージツアーで、富士箱根方面のバス添乗を数多く経験されている、英語のガイドさんです。

トラブル発生!スーツケースを返し忘れ・・・

日帰りバスパッケージツアーに参加されるお客様の旅程は様々です。東京に宿泊していて日帰りでツアーに参加される方と、日本各地を旅行する途中の1日をこのバスに乗られる方とでは、お持ちになる荷物が違います。

その日のツアーには、バスパッケージツアーで富士山を見て箱根で1泊したあと、飛騨高山や京都に向かうという2人連れの年配女性客が乗っていました。バスのストレージに積みこんだスーツケース2個は、その年配女性客がご自身で箱根のホテルで手配をして、京都に別送される手はずになっていました。

さて、1日の富士箱根観光を無事に終えて、このお2人を箱根湯本でバスから降ろし、別のお客様達を小田原駅までお連れするためにバスを出発させました。しばらくして何気なくドライバーさんに尋ねたのです。虫の知らせでしょうか。
「ストレージは、もう空っぽですよね」
「いえ、2つ荷物が残ってますよ」との返事。
「ええッ?どんなバゲッジ・タグが付いていました?」
と、焦る大久保ガイドは、あ、あの年配ご婦人方のスーツケースだ!と気が付きました。お客様に荷物を返却し忘れてしまったのです。が、時すでに遅し。さあどうしましょう!とにかくスーツケースを、ご婦人方のホテルに届けなければいけません。

その時、ガイドがとった対処法は?
まずは平身低頭して、大久保ガイドはドライバーさんに今来た道を戻っていただくようにお願いしました。そして乗車中のお客様にも事情を説明し、ご理解をいただきました。
「お客様の何人かが、スーツケースを運ぶの手伝ってあげるよと、言ってくださったのが本当に有難かったです。」と、大久保さん。

トラブルの原因はどこに?

箱根湯元でバスから降りて頂いた時に、もちろんスーツケースはバスのストレージから取り出して、持ち主の女性客に受け取っていただくはずでした。

ですが、バスから降りた際に、その女性客からは心のこもったハグをしていただき、胸が熱くなってお別れを惜しむ状況となりました。一方で、そこで離団される別のお客様にスーツケースをお渡ししたり、駅はどっち?と声をかけられてその対応をするなどして、ガイドがバスから離れたりして時間が少し過ぎてしまいました。その間に、ご婦人方はその場を離れてホテルに向かわれたようで姿は見えず、大久保ガイドは、残ったお客様を小田原駅までお連れするために、またバスに乗り込んで出発したのでした。

お客様が離団される際に、お別れの寂しさと、喜んで頂いたことへのガイドとしての嬉しさに気持ちがいっぱいになり、荷物の事が一瞬頭から離れてしまったことです。そのお客様のケアを完了する前に、別のお客様の対応を始めてしまったことで、うっかり必要な実務確認が抜けてしまったと言えましょう。

転ばぬ先の防止策は?

「この経験以来、バスのストレージは必ず自分の目で確認するようになりました。またお客様には、『荷物はご自分で運んでくださいね』と、朝のうちに説明し、降りる直前にも念押ししています。」
大久保さんは、どこでいくつの荷物を下すのかも、あらかじめドライバーさんと情報共有をするようになったそうです。自分一人ですべて対応するのは限界があるのですね。

少しでも周囲の皆さんに協力いただくことを心掛けるようになったと仰っていましたが、気持ちの高まりや感動を共有しつつも、ガイドは常に冷静に実務に気を配っている必要があるということがわかります。どんな状況でもお客様からの協力を得られるようなガイドさんの誠意ある人柄が大切なのだと実感しました。(執筆:舟橋 宏/GICSS研究会)

大久保真弓(全国通訳案内士)

2012年通訳案内士資格取得。その後英検一級取得。たくさんの感動をシェアしたい!をモットーに、2014年より旅行会社のパッケージツアーで、主に富士山箱根、日光、鎌倉の1DAYバスツアーガイドに従事する。2016年から富士登山ガイドに携わったことをきっかけに山歩きの楽しさに目覚め、現在アドベンチャートラベルガイドを目指して勉強中。趣味は、旅行と読書。剣道五段。独自の剣道体験ツアーも提供している。


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